(朝日新聞 2017/08/18)

 難関進学校とされる私立灘中学校(神戸市)の和田孫博校長が約1年前に書いた文章が、いまネット上で広がっている。灘中が新規参入の出版社「学び舎」の歴史教科書を採択したことに対して、自民党議員から問い合わせを受けたり、抗議のはがきが数百枚届いたりし、和田校長が「政治的圧力だと感じざるを得ない」などと記したものだ。文章の背景には何があったのか。

◇「圧力感じた」灘中の文 ネット拡散

 灘中が教科書を採択した学び舎は、2016年度用から中学歴史教科書に新規参入した。現役の社会科教員ら約30人が執筆、歴史研究者が助言した。日本政府が慰安婦について「お詫びと反省」を表明した1993年の「河野談話」を掲載。中学校の教科書では10年ぶりに慰安婦の記述が復活したため話題になった。

「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない」という政府見解も注記している。学び舎によると、国私立計38校が採択し、5300冊が使われている。

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▲「学び舎」の中学校歴史教科書。右のページに「慰安婦」の記述がある

 和田校長の文章は2016年9月、京大文学部の同級生を中心にしたグループの同人誌で「謂れのない圧力の中で」と題してネット上に発表された。今年7月末、民放のドキュメンタリー番組で紹介されたことなどを機に、ツイッターなどで広がった。

◇議員電話やはがき

 和田校長は文章で「自民党の一県会議員から『なぜあの教科書を採用したのか』と詰問された」と記し、同中出身の自民党衆院議員から電話があり、「『政府筋からの問い合わせなのだが』と断った上で同様の質問を投げかけてきた」とも書いている。

 さらに「何処の国の教科書か」とか、OBを名乗って「こんな母校には一切寄付しない」と抗議する匿名のはがきや、同一の文面が印刷されたはがきが合計200枚以上届いているとし、ジャーナリストの水間政憲氏のブログを「発信源のようだ」と記述。水間氏が憲法改正をめざす運動団体「日本会議」関係の研修などで講師を務めているなどとも言及したうえで、「政治的圧力だと感じざるを得ない」とも記した。

「多様性を否定し、一つの考え方しか許されないような閉塞感の強い社会という意味での『正方形』は間もなく完成する、いやひょっとすると既に完成しているのかもしれない」と結んでいる。

◇校長「静観して」

 和田校長は今月の朝日新聞の取材に「議員からは問い合わせがあっただけで、関係は良好だ。現在ははがきでの抗議も沈静化している。静観してほしい」と話す。

 一方、水間氏は昨年3月、学び舎の教科書を採択した学校に対し、ブログで「理事長や校長、そして『地歴公民科主任殿』宛に『OB』が抗議をすると有効です」などと書き、はがきなどを送るよう呼びかけた。今月7日には和田校長の文章が広がったことを受けて再掲載した。水間氏は取材に対し、学び舎の教科書を「イデオロギーで作られた危険な教科書ではないか」としたうえで、「事実は事実として発信しただけ。どう広がったのかは分からない。採択校の問題は雑誌にも書いているし、OBも危機感を持っていた。日本会議とはまったく関係ない」と話している。和田校長に問い合わせした自民党の盛山正仁衆院議員(比例近畿ブロック)は「なぜ選んだのかを尋ねただけだ。『政府筋からの問い合わせ』と言ったかどうかは覚えていない」と話している。

 教科書は、公立では自治体の教育委員会が採択し、国立、私立は学校長が採択している。昨年4月には、当時の義家弘介・文部科学副大臣が、学び舎の歴史教科書を採択した東京学芸大付属世田谷中を訪れ、教科書採択の「透明性を確保」するよう要請した。

◇都内や東海地方にも

 「学び舎」の教科書を採択した他の中学校にも、抗議のはがきや電話が寄せられていた。東京都内のある国立中には採択直後の一昨年秋、「なぜこの教科書を採択したのか」といった電話が数本あった。また昨春以降同じような内容のはがきが計200枚以上届いた。

 東海地方の複数の中学にも昨年、採択を批判する内容のはがきがそれぞれ100枚以上送られてきた。教員の一人は「特定の団体からのものだと推測する。『慰安婦』の記述が注目されるが、生徒に考えさせることを重視した先進的な教科書だと感じ、採択した」と話す。東京都内の私立中高一貫校にも昨年度、批判する内容のはがきが約100枚断続的に届いた。

◇選択 私学の自由

 浪本勝年・立正大名誉教授(教育法)の話 そもそも「学び舎」の教科書は文部科学省の検定に合格しており、どの検定済み教科書を選ぶかは私学の場合、学校の自由だ。それなのに、政権側の政治家が採択を問題視していると受け取られる発言をしたり、何者かが同じ文面のはがきを大量に送ったりする行為は、教育基本法が禁じる「不当な支配」にあたる可能性がある。学校は自由な立場から、生徒にふさわしい教科書を選ぶ姿勢を貫いてほしい。


(毎日新聞 2017/8/18)

 教育現場に特定の主張を押しつけるような、危うい風潮を感じる。

 教科書検定に合格した歴史教科書を採択した神戸市の私立灘中学校に対し、圧力まがいの抗議が寄せられていたことが判明した。従軍慰安婦を巡る記述が理由とみられている。

 同校の和田孫博校長はてんまつを公表し「政治的圧力だと感じざるを得ない」と指摘している。教科書は、現場に詳しい教員らが内容本位で選ぶべきだ。

 灘中では「学び舎(しゃ)」(東京都)が発行した中学校の歴史教科書を採択し、昨年4月から使っている。

 ところが一昨年から昨年にかけて、自民党の兵庫県議や衆院議員から和田校長に「なぜ採用したのか」と問い合わせがあった。その後、同じ文面だったり、同校OBや親を名乗ったりする抗議はがきが200通以上寄せられたという。

 学び舎の教科書は、第二次大戦中の慰安婦問題について、旧日本軍の関与を認めた「河野洋平官房長官談話」(1993年)を紹介している。このことが抗議の背景にあるとみられるが、採択した教科書について、個別の学校に執拗(しつよう)な抗議が集中するのは異例だ。

 まず確認したいのは、教科書の採択は公立学校では教育委員会に、国立、私立の学校では校長に権限があり、その自主的な判断に委ねられていることだ。

 灘中では、教員による採択委員会で使用を決めた。「歴史の基本である、読んで考えることに主眼を置いた教科書で、能動的な学習に向いている」と評価している。

 文部科学省の検定に合格した教科書を教員が内容を見て、自校の教育にふさわしいと判断した。その手続きは正当であり、何の問題もない。

 検定教科書の中身について、個別に批判したり意見を述べたりすることはもちろん自由だ。だが、学校側に直接介入したり、政治家が関与したりする風潮が広がると、教育そのものをゆがめてしまう。

 この教科書は、難関の国立や私立の中学校を中心に38校が採用しているが、灘中以外に全国で少なくとも10校が同様の抗議を受けたという。

 「教育の独立性が脅かされる」という教員の危惧はもっともだ。学校への、あってはならぬ圧力である。


先日↓から新たな事実もないのに、同日に毎日新聞と朝日新聞ですか・・・。育鵬社や自由社の教科書採択妨害運動を日本市民団体や民団が組織的に行ったことや韓国地方自治体が行ったことは一切批判しないのにね。

2017年08月09日