(毎日新聞 2006/09/28)
自民党の総裁選に気を取られていたら、中国では日本製品たたきをやっていた。広東や上海、遼寧など各地の検疫当局が日本製の食品から基準を超える有害物質を検出した、というニュースを、テレビで繰り返し流したのである。
税関職員が箱を開けて日本製品を検査する映像が1週間前後、連日トップニュースになった。このキャンペーンが、抗日戦争の記念行事がある9月18日(満州事変の記念日)前から始まったのも偶然ではないだろう。
やり玉にあがったのは、魚肉ソーセージのソルビン酸。スルメイカのカドミウム。冷凍タコの黄色ブドウ球菌、ケーキのアルミ、ジャガイモ粉の二酸化硫黄、冷凍カキのクロムなど。
浙江省では、日本産の冷凍サンマから基準値の22倍のヒ素を検出した、という。この報道の影響で香港のスーパーは店頭から日本産サンマを撤去し、お客の返品要求に応じた。だが、香港の衛生当局が検査した限りでは有害物質は検出されなかった。
杭州の食品検査官は、回転ずしのにぎりずしから大腸菌を検出した。この店は中国人の経営だが、「日本料理というものは不潔である」という含みが伝わってくる。
日本の工場で製造したP&G社の化粧品からクロムなどの重金属が検出された、という報道も、実はこの反日キャンペーンの一環だ。上海では返品を求める女性が殺到して事務所が壊される騒ぎまで起きている。
同じものを、香港の検疫当局が追試した。確かに重金属は検出したが、微量なので問題はなかった。シンガポール、台湾などでも同じ結論だった。
なぜ中国で問題になるのか。その答えは、9月23日付の香港「明報」紙にあった。記事によると、中国の消息筋は「日本を痛い目に遭わせてやった」「警告だ」と言っているそうだ。
日本が輸入農産物の残留農薬を厳しく規制する「ポジティブリスト」を導入した。そのために中国産農水産物の対日輸出は2割近く減った。中国が日本製品の検疫を厳しくしたのは、その報復だ。そんなことだろうと思っていたが、やっぱりそうだった。
新しく農相になった松岡利勝氏が副農相当時の2001年、日本は中国産イグサなどにセーフガードを発動した。中国は日本製自動車の報復関税で対抗し、日本が降参した。安倍内閣の看板は「主張する外交」だが、今回の件は音無しの構えだ。白頭山(ペクトゥサン)の続きはまた。
中国進出企業はあらためてチャイナリスクを実感できましたね。
政経不分離と中国
(朝日新聞 2006/09/15)
かつてブッシュ米大統領は、小泉首相に対して直接、牛肉輸入再開を迫ったことがある。政治と経済が分離できない典型例だろう。民主主義国の権力は、支持基盤を無視できない(例外が小泉首相だろうか)。
とはいえ、イラクに関する政策を巡って、フランス、ドイツと険悪になったからといって、アメリカの政府関係者が、両国との貿易に「影響する」などと発言することはなかった。
訪中した御手洗冨士夫日本経団連会長らへの中国側の主張は、本紙の伝えるところによれば「政経不分離」一色であった。商務省の陳健次官補ら中国関係者は、「靖国参拝」が貿易に影響する、と直接、間接に伝えている。
経済的な取引が政治とからむことはありうる。しかし、日常的な交易に政治が持ち込まれるとなると話は別だ。中国のようにあからさまなのは異常で、仮に「靖国」が新幹線や原発とからむとなってくると、これはもう明らかに「非関税障壁」であろう。自由貿易を阻む各種の保護貿易や関税、あるいは非関税障壁の多くは、国内政治の反映である。それゆえ国家間の直接交渉では解決しがたいので、WTOの共通したルールが存在するのだ。
この中国による「障壁」に対する報復条件として、もし日本の政府関係者が、明らかに国際法違反であった過日の反日デモによる大使館などの被害を賠償し、謝罪しなければ、ビジネスに「影響する」と主張したら、どうなるだろう。
特定の政治的イシューを通すために、取引国を差別するのは、WTOの精神に反することは明らかだ。ここのところ中国への投資は急速にブレーキがかかっているが、けだし当然といえよう。特定の相手とのみ取引することは危険であるのは言うまでもない。リスクの分散がビジネスの基本である。大切なのは、取引対象国を広げることだ。
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