(朝日新聞 2020/09/07)

 中国海警局の公船が日本領海への侵入を繰り返す沖縄・尖閣諸島沖。専従体制を敷いて対応する海上保安庁に対し、尖閣の領有権を主張する中国側は大型船を次々に投入して圧力を強める。せめぎ合いの遠因となった、中国漁船による海保巡視船への衝突事件から7日で10年が過ぎた。海警局元幹部が朝日新聞の取材に、中国側の狙いを語った。

◇漁船衝突10年 「国民の問題意識を高めた」

 領海外側の接続水域を航行しながら、ときおり領海に侵入する4隻の中国公船。うち3隻は3千トン級超の大型船で、並走する海保の巡視船が「ここは日本の領海である。領海から退去するように」と警告を続ける――。尖閣周辺では今年4月から8月まで、そんな状況が過去最長の111日間も続いた。

 「国民に尖閣の問題を強く認識させたという意味で、一つの契機だった」

 海保幹部がそう語るのは、2010年9月7日にあった出来事だ。

 違法操業の疑いがあるとして停船を求めた海保の巡視船に中国漁船が衝突。海保は船長を公務執行妨害の疑いで逮捕した。だが、中国政府は強硬に抗議し、那覇地検は「今後の日中関係を考慮した」として船長を釈放し、船長は帰国した。国内では対応への不満が高まり、「Sengoku38」を名乗る現職の海上保安官が衝突の映像を動画サイトに流出させる問題も起きた。

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▲中国漁船が巡視船「みずき」に衝突した瞬間。政府は当初、映像を一般に公開していなかったが、海上保安官が動画サイトに投稿した(海上保安庁提供)


 事件をきっかけに、それまでなかった中国公船による周辺海域の航行が急増。一時は月13日にもなった。航行はその後、月1日ほどに収まったが、石原慎太郎・東京都知事(当時)が尖閣購入を検討すると表明したのを受け、民主党政権が12年9月に尖閣を国有化。すると中国は反発し、公船の航行は一気に月20日以上に増えた。「国有化を口実に、実効支配に向けた圧力を強め始めた」。海保関係者の多くはそうみる。

 中国は船の強化も急速に進めた。当初は海保の巡視船より小さい船が多かったが、今では1千トン級以上の大型船は海保の2倍以上。3千トン級以上の船の割合は、12年の13%から18年には74%に増えた。海保の主力が1千トン級なのに対し、中国の主力は3千トン級だ。

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◇日本側も警備の専従体制整えたが

 一方で日本側は手をこまぬいていたわけではない。

 海保も10年間で大型船を3割、職員を1割強増やした。16年度までに尖閣に近い石垣島と那覇に大型の巡視船計12隻を配備し、尖閣警備の専従体制を整えた。

 だが圧力は収まらず、中国公船が領海のすぐ外側の接続水域を航行した日数は昨年、過去最多の計282日に及んだ。今年は領海で漁をしていた日本漁船を追尾する事案も起きた。

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▲尖閣諸島付近の接続水域を航行する中国公船(奥)を警戒監視する海上保安庁の巡視船(2018年、海保提供)

 海保幹部は言う。「体制の整備は進んだが、求められている役割が10年前と変わったとは思わない。事態をエスカレートさせることなく、毅然(きぜん)と対応するだけだ」

 専門家はどうみるか。

 海上自衛隊OBで駐中国防衛駐在官を務めた笹川平和財団の小原凡司・上席研究員は「いったん中国の圧力が収まったことから見ても、衝突事件での海保や政府の対応はおおむね適切だった」と評価する。一方で、この時に高まった国民の危機意識が尖閣国有化につながったとみる。

 「海保に求められるのは、現場で中国に付け入られずに毅然と対処するという難しい対応だ。政府は、冷静かつ正確に国民へこの問題を説明し続けることが重要になる。米中対立の枠組みを利用するなどして、中国の圧力を緩和する努力もしていくべきだ」(贄川俊)

◇海警元幹部「中国は365日パトロール行える」

 「中国公船が何日も続けて釣魚島(尖閣諸島の中国名)の接続水域に入った、という日本側の批判は、もはや何の意味もない。中国はすでに365日パトロール活動を行う能力と態勢を備えている」

 かつて尖閣諸島周辺で警備活動にあたっていた中国海警局の元幹部は、朝日新聞の取材にこう語る。

 今年、中国海警の公船は過去最長の111日連続で尖閣諸島周辺を航行した。米国との対立を抱える中国は、外交的には日本との安定した関係を志向しているとみられるが、なぜ尖閣周辺の動きを強めるのか。

 その意図について元幹部は、「日本漁船が島への接近を繰り返したり、6月に沖縄県石垣市議会が字(あざ)名に『尖閣』を加える議案を可決したりしたことが背景にある」と指摘。「漁船の中には、挑発的な行為も見受けられる。そうした行動に厳しく対応するのは当然だ」とし、領有権を主張する活動は日中を取り巻く外交環境とは一線を画して進める構えを示す。

 中国は1999年に海警局の前身にあたる海監総隊を発足させるなど、離島管理や海洋権益の確保を担う海上法執行部隊の整備を段階的に進めてきた。

 2010年の衝突事件と12年の尖閣国有化がその動きを加速させたことは間違いない。国有化から半年後、習近平(シーチンピン)指導部は機構改革に着手し、海監総隊、公安省、農業省などが別々に行っていた海上警備業務を新設の海警局に統合。中央からの指揮系統も整備し「海洋強国」実現へ機能強化を図った。18年には海警局を中央軍事委員会の指揮下にある人民武装警察部隊(武警)に編入した。海警局元幹部によると、作戦遂行能力の高い米国沿岸警備隊と海軍の関係に習った組織改編だった。

 衝突事件を起こした漁船が尖閣に接近した背後に、中国当局の何らかの戦略や意図があったのかは今も判然としない。元幹部は「当時は偶発だろうが、あの事件以降、対立の原因は常に日本側が作ってきた。今年の緊張関係も構図は同じだ」と主張する。

■戦略・意図 今もはっきり見えず

 習氏は13年の海洋強国建設に関する党内会議で「主権は我にあるが、論争は棚上げし、共同で開発する」と指示。実際、南シナ海で対立を抱えるベトナムやフィリピンなどには共同開発なども呼びかけているが、主権を決して譲らないという立場は南シナ海でも東シナ海でも揺らいでいない。(北京=冨名腰隆)
     ◇
〈尖閣沖の中国漁船衝突事件〉

 2010年9月7日、沖縄・尖閣諸島の久場島沖で中国漁船が石垣海上保安部の巡視船「よなくに」と「みずき」の2隻に相次いで接触し、海保は船長を公務執行妨害の疑いで翌日逮捕した。那覇地検は17日後に「日中関係への考慮」などを理由に船長を釈放し、不起訴処分(起訴猶予)とした。当時の民主党政権は衝突時の映像を一般に公開しなかったが、この対応に不満を持った海上保安官が同年11月、動画サイトに流出させた。

■尖閣諸島周辺をめぐる動き

2010年9月 中国漁船が尖閣諸島沖で海保の巡視船2隻に衝突。海保が公務執行妨害の疑いで中国人船長を逮捕同 那覇地検が船長を処分保留で釈放

   11月 神戸海上保安部の保安官(当時)が動画サイトに衝突映像を流出させる

 12年4月 石原慎太郎・東京都知事が尖閣諸島の購入計画を表明9月 政府が尖閣諸島を国有化。以後、中国海警局の船が領海侵入を繰り返すようになる

 16年8月 200隻以上の中国漁船が尖閣諸島周辺を航行

 18年7月 海警局が軍系統の人民武装警察部隊(武警)に編入

 20年6月 沖縄県石垣市議会が尖閣諸島の字名に「尖閣」を加えることを決定

   8月 中国公船の接続水域の連続航行日数が、過去最長の111日に


朝日新聞は「尖閣周辺での兵力はすでに中国が上、日本は刺激するようなことを避けるべき」とでも言いたいのかな。

何はともあれ、民主党政権の『漁船船長逮捕』と『尖閣国有化』で尖閣問題が日本で広く知られるきっかけになりましたね。