(日本経済新聞 2021/03/30)

【台北=中村裕】台湾と外交関係を結ぶ西太平洋の島国パラオを巡り、米中の対立が激しくなってきた。中国が安全保障の要衝とみて開発援助でパラオを切り崩そうとする一方、米国は28日からのパラオのウィップス大統領の台湾訪問に駐パラオ大使を同行させ、対抗姿勢を鮮明にした。

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は30日、ウィップス氏と会談し、「パラオと台湾の間には長期的な信頼関係がある」などと語り、関係強化に意欲を示した。

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呉釗燮・外交部長(外相)は同日の記者会見で「(今後は)米国、台湾、パラオの3者が共同で沿岸警備で協力する機会が生まれる」と述べた。訪台に同行した、ヘネシーナイランド駐パラオ米国大使も記者会見で「米国の仕事は、パラオや太平洋のパートナーと協力を深めることだ」と語り、3者の緊密さを誇った。

台湾の蔡総統は2019年、パラオを訪れ、沿岸警備に関する連携協定をむすんだ。今年3月25日には米国とも沿岸警備に関する協力で合意した。3者が連携すれば、海洋進出を活発化する中国をけん制できる。

1月に就任したウィップス氏は台湾と関係が近い。ウィップス氏によると「米国が台湾訪問を支援し、実現させた」。米国は駐パラオ米国大使を同行させる異例の方法を取った。1979年に米台が断交して以来、米国大使が台湾を訪問するのは初めて。パラオは中国に譲らない姿勢を示した。

パラオは地政学上の要衝に位置する。台湾有事などに米軍の接近・侵入を阻止するため、中国は九州、沖縄、台湾をつなぐ「第1列島線」と小笠原諸島やグアムをむすぶ「第2列島線」という2つの防衛ラインを強く意識してきたとされる。

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中国はより遠くの「第2列島線」で米軍の接近を食い止めたい意向とみられる。パラオはちょうど第2列島線の上にあり、中国は近年、その周辺地域への開発援助を通じて西太平洋での影響力を強めてきた。19年には台湾と外交関係があったソロモン諸島とキリバスが相次いで断交し、中国と国交をむすんだ。

米国にとってパラオは重要だ。米軍基地があるグアムに近く、1994年に自由連合盟約(COFA)をむすんだ。パラオが米国から財政支援を受ける一方、国防を米国に委ねる。パラオでも中国の支配が強まれば、米軍は第2列島線から後退し、中国の太平洋進出をさらに許しかねない。

米国はパラオへの働きかけを強めてきた。20年8月にはエスパー米国防長官(当時)がパラオを訪れた。米政府高官の訪問は86年以来のことだった。パラオも米軍基地の設置を提案するなど共同で中国に対抗する動きが活発になっている。

中国も対抗姿勢を強める。中国軍機が連日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に繰り返し侵入。26日は過去最多の20機、29日にも10機がADIZに入り、台湾を威嚇した。


(日本経済新聞 2021/03/29)

【台北=中村裕】台湾の国防部(国防省)は29日、中国軍の戦闘機など計10機が同日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したと発表した。26日の20機に続く最近では異例の多さとなる。台湾と外交関係を結ぶパラオのウィップス大統領の訪台に、駐パラオ米国大使が同行し、中国が強く反発したものとみられる。

国防部によると、中国軍の戦闘機「殲16」4機など計10機がADIZに侵入した。台湾の南西部から侵入し、南東部にまでまわり込み、広範囲で威嚇した軍機もあった。

中国外務省の趙立堅副報道局長は29日の記者会見で「米国と台湾がいかなる形であれ、公式に接触することは断固反対する」と強い反発を示していた。

中国の強硬姿勢の背景には、1月に就任したばかりのウィップス氏の台湾訪問を、米国が強く後押ししたことがある。米国は近年、パラオが属する太平洋島しょ国に対し、中国が経済協力を通じて影響力を強めていることに危機感を覚えている。台湾やパラオへの関与強化で対抗姿勢を鮮明にした格好だ。

ウィップス氏の訪問に、駐パラオ米国大使を同行させたのも異例で、中国を刺激した。1979年に米台が断交して以来、米国大使が台湾を訪問するのも初となった。

ウィップス氏は、台北市内で29日、記者会見を開き「中国から接触を受けるが、友人になることは強制されるべきではない。我々は台湾と信頼関係を結んでいる」などと述べた。米国大使が同行したことについては「自由なインド太平洋を共に守るために同行してくれた」と語った。