(朝日新聞 2022/06/12)
シンガポールに集った日米韓の防衛相が11日、およそ2年半ぶりに対面での3カ国会談を実施した。脅威を増す北朝鮮の核・ミサイル開発への対応などを話し合い、「3カ国での結束」を誇った。一方で日韓2カ国だけの公式の会談はなく、両国の関係改善への視界が晴れているとは言えない。(シンガポール=稲田清英、清宮涼、松山尚幹)
日米韓の防衛相が会するシャングリラホテルの一室に、カメラのシャッター音が慌ただしく鳴り響く。米国側は訪れた多数の報道陣を招き入れ、それぞれが国旗の前に立つ「3ショット」の撮影で、結束をアピールした。
日米韓がともに見すえる相手は北朝鮮だ。会談では、北朝鮮の大量破壊兵器や弾道ミサイル開発を改めて「重大な脅威」と確認。共同声明で3カ国でミサイルに対処する活動を具体化させていくことをうたった。韓国の国防関係者は今回の会談について「まず3者で会うことに意味がある」とみる。
■核は「国権を守るために一歩も譲れない」
米国は、対立が深まる中国やウクライナに侵攻したロシアなど多方面への対応を同時に迫られる状況に置かれている。こうしたなか、バイデン政権は北朝鮮への対応で、特に日米韓3カ国での連携を重視する。オースティン国防長官は11日の演説で、「日米韓の安全保障協力を深化させている」と述べ、連携を強化する姿勢を示した。
米国が中ロの対応に追われる状況は、北朝鮮からみれば軍事的圧力を強める好機だった。
3月には米本土を射程に収めうる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を撃ち、5月のバイデン米大統領の日韓歴訪の前後にもミサイルの発射を続けた。そして、北東部の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場を整備し、いつでも核実験に踏み切れるよう準備している。
北朝鮮にとって「核」は、強大な軍事力を持つ米国から、独裁的な金正恩(キムジョンウン)体制を守るために不可欠な手段となっている。朝鮮中央通信によると、金正恩総書記は8~10日に開いた朝鮮労働党中央委員会総会で、核実験などへの直接の言及はないものの、「自衛権は国権を守るために一歩も譲れない、我が党の『強対強』『正面勝負』の闘争原則だ」と強調した。
「安全環境は非常に深刻で、周辺情勢が極端に激化しかねない危険性を帯びている」ともし、国防力強化の目標の達成を前倒しするよう求めもした。長引く制裁による経済の疲弊に加え、5月には国内に新型コロナウイルスの感染者がいることを公表しているが、核・ミサイル開発については最優先にしていく姿勢を示したと言える。
北朝鮮をめぐる情勢は、5月の韓国の政権交代を一つの契機として変化し始めている。2018年に北朝鮮が米国のトランプ前政権との対話路線に転じて以降、融和的な姿勢を貫いた文在寅(ムンジェイン)前政権の方針を「失敗」と断じ、圧力路線へ変えていく尹錫悦(ユンソンニョル)政権の誕生だ。ここから、米韓と北朝鮮は互いに「力」を見せ合う局面に入っていると言える。
バイデン大統領は、核兵器を含む米国の戦力を背景に韓国や日本への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」を強く打ち出す。北朝鮮によるミサイルの発射に対しても、今月2~4日の米韓両軍による合同軍事演習の実施や、ミサイルによる応酬で強く牽制(けんせい)している。
この互いに「牽制」に「牽制」を重ね合う状況は、北朝鮮が対話路線に応じる前の17年の状況をほうふつとさせる。北朝鮮によるICBMの発射は17年以来で、核実験を強行すればこれも17年以来となる。米韓軍の合同演習には17年以来初めて米原子力空母が参加し、今回の防衛相会談で合意されたのは、17年以来となる3カ国によるミサイルへの対応訓練の再開だった。
■日韓関係めぐり、岸氏
「いろいろな課題」 「日韓での意思疎通の重要性は認識しているが、具体的な会談については適時適切に判断していく」。岸信夫防衛相は11日、記者団から、日韓による防衛相会談が開かれなかった理由を問われ、こう語った。
防衛省幹部は当初、「立ち話」での意見交換の可能性を否定していなかった。結局、日米韓の枠組みでは共同訓練再開という一定の前進が見られたが、日韓の関係改善は依然として進んでいないことが浮き彫りになった。
5月に尹政権が誕生した際、日本側には歓迎ムードが広がった。保守系の尹氏は日本との関係を重視する姿勢を明確にしており、政権発足前に政策協議代表団を日本に派遣。岸氏も代表団と面会した。
しかし、5月末に韓国国立海洋調査院の調査船が島根県の竹島(韓国名・独島)周辺で、事前申請をせずに海洋調査を実施したことが発覚。外務省が韓国側に抗議し、自民党からも反発する声が起きた。 防衛省幹部によると、岸氏は日米韓の会談の場で日韓関係について触れ、「いろいろな課題がある」などと懸念を伝えたという。
その一つが18年に発生した、韓国海軍駆逐艦による、海上自衛隊の哨戒機への火器管制レーダー照射だ。防衛省幹部は「両国部隊同士の信頼関係に関わる重大な問題。なかったことにはできない」と話し、今も「しこり」が残る。
日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も大きな懸案だ。日本の対韓輸出規制への報復措置として、文在寅前政権が19年に破棄を通告。米国の求めで破棄はしていないが、日韓の情報連携は不十分なままだ。
また、政治的には18年の元徴用工判決が最大の問題だ。戦時中の徴用工をめぐり、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じ、資産が差し押さえられた。現金化される事態になれば、日本側は「日韓関係は後戻りができなくなる」(外務省幹部)と話す。
尹大統領は、6月末にスペインで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で岸田文雄首相と接触したい意向だ。韓国政府高官は「立ち話ではなく、正式な会談によって首脳同士の信頼醸成を図りたい」と話す。朴振(パクチン)外相を今月中旬にも訪日させ、林芳正外相と首脳会談に向けた調整を進めたい考えだ。
一方の日本側は、夏の参院選を控え、自民党を中心に韓国との接近に慎重な声が根強い。日韓間の問題解決には、韓国側が具体的な提案を示すことが不可欠との考えで、政権発足間もない尹政権が、信用できる具体案を示すことは無理だとみているからだ。
日本外務省幹部も「就任のあいさつは終わった。中身のある話をもう少し詰めて持ってきて欲しい」と話す。本格的な日韓の関係改善は参院選後に先送りされる見通しだ。

決定的な断裂だ
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