日韓トンネルは「教祖の悲願」 賛同者に大物政治家、教団の狙いとは
(朝日新聞 2022/09/04)

 玄界灘を望む佐賀県唐津市。かつて豊臣秀吉が朝鮮出兵の拠点とした名護屋城跡から南に約1・5キロの山中に、周りをコンクリートで固めた大きな穴がぽっかりと開いている。穴の上にかかる看板には「日韓トンネル唐津調査斜坑」と日韓2カ国語で書かれていた。

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 日本と韓国を海底トンネルで結ぶ「日韓トンネル」構想は、両国を全長200キロを超えるルートでつなぐ計画。「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の創始者、故・文鮮明氏が1981年に提唱し、教団や友好団体が推進してきた。日本の閣僚からは「荒唐無稽」との声も上がるが、計画推進のための会合には国会議員らも参加していた。

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 記者が訪ねた8月中旬、人の気配はなかった。

 付近の住民によると、もともとこの辺りは牛の放牧場だった。近くに住む80代の男性は「本工事に向けて、機械を入れるトンネルと聞いている。コロナ禍以前は時折バスが何台も来て、視察をしていたようだ。非現実的な計画で、実現するかどうかはあまり関心がなかった。これまで地元とのトラブルなどはなかったと思う」と話す。

◇「日本を陸続きに…」 関係者が語った教祖の悲願

 日韓トンネル構想の事業を担うのは、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の友好団体の一般財団法人「国際ハイウェイ財団」(東京)。1982年に設立された前身の団体のトップには、教団の日本での初代会長を務めた久保木修己氏が就任した。

 教団の資料や財団によると、日韓トンネルは、九州北部から長崎県の壱岐と対馬の両島を通り、韓国南部までを最短約235キロで結ぶ。総事業費は10兆円と試算する。斜坑がある佐賀県唐津市の土地は広さ約19万4千平方メートル。斜坑の建設費は約21億7500万円で、調査費は約45億6600万円としている。

 斜坑はトンネル本体の工事に向け、地質調査などを目的に試掘したもの。86年に起工し、2007年までに直径6メートルの坑道を約540メートルまで掘り進めた。所有する敷地の境界に達し、それからは中断しているという。掘り進んだ土地は10年、教団から財団に寄付されている。

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▲日韓トンネルの試掘現場(下)。上は玄海原発=2022年8月11日、佐賀県唐津市、朝日新聞社ヘリから

 かつて財団の元幹部はトンネルについて「教祖の悲願」と表現し、「日本(と韓国)を陸続きにして島国でなくするという文鮮明師の考え方に基づく」と、朝日新聞記者らに説明した。

 構想を後押しする動きは、国内でじわりと広がっていた。

 10年以降は「日韓トンネル推進会議」が各地に立ち上がった。また衆院事務局によると、11年に徳島県議会が、13年に長崎県対馬市議会が、日韓トンネルの早期建設や着工を求める意見書を衆院に送付した。

 17年には東京都内で「日韓トンネル推進全国会議」の結成大会が開かれた。財団が共催し、教団の友好団体「UPF(天宙平和連合)―Japan」「平和大使協議会」が協力に名を連ねた。

 会場では、朝日新聞記者が取材していた
。

 財団の徳野英治会長(当時)が「新幹線に乗って東京からソウルにまいりましょう」と呼びかけると、大きな拍手が起きた。徳野氏は当時、教団の日本の会長でもあった。

 大会には自民党の国会議員も出席していた。当時、幹事長特別補佐を務めていた武田良太衆院議員は「二階(俊博)幹事長もご招待いただいたが、国会中で日程調整がつかず、私が代わりをさせていただく」と述べ、「この夢を必ずや実現していきたい」。

参院憲法審査会長だった柳本卓治・元参院議員は「日韓トンネルで、心だけではなく本当に往来ができるように実現を図っていかなければならない」とあいさつした。

 元官房長官で、当時日韓議員連盟幹事長だった河村建夫・元衆院議員がビデオメッセージを寄せ、日韓トンネルについて「究極の日韓融合の一つの大きな指標だと我々も認識している」と話した。

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 日韓トンネルに関して名前が出てくるのは、政治家だけではない。15年に設立大会が開かれた「日韓トンネル実現九州連絡会議」の会長は、九州大学の元総長が務める。推進会議の地方組織の会合では、民間閣僚だった元総務相やJR九州元社長らが講演していた。

 日韓を結ぶ海底トンネルは、過去に日韓首脳の間で話題になったこともある。財団は「過去、日韓の首脳がその意義を認め、賛同の意を何度も表明した国際プロジェクト」と説明する。

 一方、斉藤鉄夫国土交通相は8月26日の会見で「(国土づくりの方向性を示す)国土形成計画において、日韓トンネル構想を検討したことはない。ちょっと荒唐無稽な構想だと思っていた」と述べた。

 地元はどうか。

■試掘坑の見学ツアー 「寄付の口実として利用」指摘

 佐賀県によると、単に穴を掘るだけでは県の許認可対象となる「開発行為」には当たらない。一定範囲以上の森林伐採があれば森林整備課で法令に沿った対応をするが、今のところそうしたこともないという。唐津市の峰達郎市長は8月26日の会見で「民間団体が私有地で活動していると理解している。市は一切関与していない」と述べた。さらに「報道で出るたびに、看板に『唐津』の文字が入っていることにちょっと違和感を持っている。できれば看板は取り外してほしいという個人的な気持ちはある」と漏らした。

 教団が14年に記者に配布した資料には、「日韓トンネル早期実現のために全ての教会員が協力している」「教会と信徒が100億円を超える寄付を行い、財団が調査と建設の事業を担ってきた」などと記していた。

 ただ、日韓トンネルが絡んだ献金をめぐっては、教団に損害賠償を求める訴訟も過去には起きている。

 80年代、複数の訴訟で代理人を務めた「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人の山口広弁護士は「教団は献金を集める名目として日韓トンネル計画を利用してきた。政治家や学者らが関与すれば社会的な信用を与えることになり、献金を助長するおそれがある。即刻手を切るべきだ」と批判する。

 教団がトンネル資金のために借りた金の名義貸しをさせられたとして、元信者が約1億8千万円の損害賠償を求めた訴訟を担当した平田広志弁護士(福岡県弁護士会)は「旧統一教会は、信者らを頻繁に試掘坑の見学ツアーに連れて行った。日韓トンネル計画は、統一教会が意義深い活動をしている印象を信者らに持たせ、活動資金を寄付させる口実として利用された」と語る。

 財団は、朝日新聞の取材に「多くの団体、個人から貴重な寄付金をいただき、実現に向けての調査、研究、用地確保などを行ってきた」と説明する一方、日韓関係の悪化や日本の経済不況を挙げて「1990年ごろ以降は寄付金募集も決して容易ではない状況にあることは認めざるをえない」とする。さらに「教団批判に注力している弁護士らが、教団に被害を及ぼすことを目的に日韓トンネルを持ち出し、事実に反する内容を繰り広げている」とも主張している。

 教団は「資金集めのための運動ではない。そのように言われることは大変遺憾だ」と回答した。

■河村元官房長官「計画、趣旨には賛同」

 17年の「日韓トンネル推進全国会議」結成大会に参加した経緯などについて、河村建夫氏は取材に「自分は教団の支援は一切受けていないし、日韓トンネルは教団が推進している計画だと知っていたので積極的に参加したくなかったが、教団から支援を受ける地元山口県の市議に頼まれたのでビデオメッセージを送るだけにした。計画自体は日韓友好につなぐ夢として趣旨には賛同している」と語った。

 武田良太氏は「無回答」とし、柳本卓治氏は期限までに回答がなかった。