(朝日新聞 2023/07/02)
 全米各地で、中国人の土地購入を制限しようとする動きが急速に広がっている。日本でも「土地利用規制法」の立法につながった安全保障上の懸念に加え、米国で党派を超えて共有された厳しい対中感情が背景にある。米国の強みだった開放的な国民性を損なったり、差別につながったりするのではないかとの懸念の声もある。

■米軍基地周辺への中国企業の進出がきっかけ

 米国立農業法センター(アーカンソー大学)のマイカ・ブラウン氏の調査によると、2023年には全50州のうち35州で、米国人以外の土地購入を制限する法案が州議会に提出され、フロリダ州など10州で可決に至った。同様の法案が提出されたのは21年は4州、22年は8州だった。中国に対する警戒感が強まり、提案が急増した。

 ブラウン氏は「多くは中国、ロシア、イラン、北朝鮮の4カ国による購入を制限するものだが、中国だけを特定した規制も増えている」と言う。

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 きっかけとなったのが、一部の州で米軍基地周辺への中国企業の進出が発覚したことだった。

 テキサス州バルベルデ郡では16年以降、中国企業が約500平方キロメートルの広大な土地を取得し、風力発電事業をする計画が持ち上がった。

 用地はラフリン空軍基地から50キロあまり。電力インフラへの接続を許せばサイバー攻撃のリスクもある――。そんな懸念から21年、基幹インフラに関連する契約を中国やロシア、イラン、北朝鮮の企業との間で結ぶことを禁じる州法が州議会で全会一致で可決され、成立した。

 地元で環境保護に取り組むジュリー・ロウイ氏は「初めは環境の観点から風力発電計画に反対してきたが、反響は小さかった」と振り返る。「ところが安全保障の問題を訴えてみると、懸念が一気に広がった。驚いた」

 中国人の大富豪が計画を手がけている事実が注目を集め、州法の成立とともに、風力発電計画は中止に追い込まれた。

 法案に賛成し、議会に働きかけてきた投資家カイル・バス氏は「我々は移民に平等でなければならない。その寛容さに付け込むのが中国の狙いだ。一般人のふりをして、裏で中国政府と関係があることも考えられる」と語る。

 国防当局も、中国への警戒感を隠さない。5月、連邦議会で質問を受けた米国防情報局(DIA)のスコット・ベリア局長は、敵対する外国勢力による土地購入について「明らかに、スパイ防止活動における巨大な脅威だ」と明言した。

■「米国の開放性を失わせる」指摘も

 一方、性急な規制の動きに異論も根強い。

 フロリダ州では23年に成立した法律について、在米中国人らが違憲だとして州を提訴した。

 テキサス州議会でも、規制拡大の動きが物議を醸した。州内では従来、中国企業などを規制対象としてきたが、23年にかけ、中国など4カ国の国籍を持つ個人すべてに土地購入を禁じる法案が審議されたためだ。

 この法案には激しい反発が広がった。中国系米国人の団体は、「人種差別だ」として大規模な反対デモを展開した。

 約30年前に中国から渡米したリー・シュー氏(54)は「永住権を持つ中国人が普通に家を買うことさえできなくなる」と懸念を語る。「10年前、テキサスは中国とのビジネスに前のめりだった。でも状況は大きく変わった。いま議員たちは、中国に厳しくすれば選挙で有利になると思っている」

 規制の強化が、開放性という米国の強みを失わせるという見方もある。パキスタン出身のサルマン・ボジャーニ州下院議員(民主)は19歳で渡米し、清掃業などを経験しながら政治家になった。「安全保障に取り組むのはよいことだ。だが、人々がこの州に来るのを阻害するような法律はつくりたくない。私のアメリカンドリームも、土地の購入が禁じられていたら不可能だっただろう」。そう指摘する。

 テキサス州議会では民主党議員からの反対が強く、審議は紛糾して、100人以上が証言に立った。結局、法案は大きく修正された。土地購入を禁じる対象を農林用地などに限定し、個人の住宅用には影響しないよう例外が明示された。法案は上院を通過したが、下院での議論がまとまらず、23年5月、廃案の見通しが固まった。

 こうした法案提出の動きは共和党が強い州で比較的目立つが、民主党優位の州で民主党議員が提案する場合もある。政治的分断が激しい米国だが、対中強硬論は超党派で合意できるテーマだ。

 一方で米政府によると、米国内で外国人が所有する農地のうち、中国が占めるのは21年末時点で0・9%にとどまる。中国の脅威が誇張されている、との見方もある。(テキサス州オースティン=高野遼)

■日本でも土地規制法 運用に残る懸念

 日本では昨年、防衛施設など安全保障上重要な施設の周辺や国境の離島を対象とする土地利用規制法が施行された。

 「注視区域」や「特別注視区域」を指定し、施設の機能を損ねる行為に中止勧告や罰則つきの命令を出す。現在、区域の選定が段階的に進められており、全国約600カ所が指定される見通し。ただ、恣意(しい)的な運用への懸念は解消されておらず、基地や原発に反対する住民が監視対象になるとの見方もある。

 法律は「外国資本に土地を取得される」という懸念が出発点となった。内閣官房が作成した有識者会議の資料では、自衛隊基地近くでの中国企業の土地取引を問題視する北海道千歳市議会の質疑が、懸念の声として引用された。

 その後、防衛省が全国の自衛隊施設の隣接地を調べたところ、外国人の所有は7筆にとどまっていた。懸念は誇張ではないかという指摘も相次ぐなか、法案は成立した。

 今年2月には、沖縄の無人島・屋那覇(やなは)島(沖縄県伊是名村)の半分ほどを、中国系企業が購入していたことが注目を集めた。松野博一官房長官は記者会見で土地利用規制法の対象ではないと説明しつつ、「政府としては関連動向について注視していく」と述べた。(後藤遼太)