(日本経済新聞 2024/02/26)
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の外交ブレーンで、韓国国立外交院の朴喆熙(パク・チョルヒ)院長が日本経済新聞のインタビューに応じた。日韓関係のさらなる発展のため、2025年に新たな日韓共同宣言を結ぶことなどを提案した。

――日韓関係の発展には何が必要ですか。

「固定観念からの脱却が必要だ。これまで日本のスタンスは韓国の要求に応じればいいというのが基本だった。もう少し目線を同じにできたらいいと思う」

――尹政権になって日韓関係は改善に向かっていると言われます。

「これまでの日韓関係は歴史的に3つの大きな波があった。朴正熙(パク・チョンヒ)、金大中(キム・デジュン)、そして尹錫悦の3人の大統領の歴史的決断が新しい流れをつくった」

――韓国国内の一部にも日本に対して過去の歴史を清算するべきだとの声があります。

「過去の歴史を清算しなければ踏み出せないという考え方だと思う。この発想は未来志向ではない考えだ」

――日本国内にも、日韓の経済界が設立した「未来パートナーシップ基金」に資金を出すには徴用工問題の解決が前提だとの意見があります。

「未来志向ではないと思う。未来パートナーシップ基金は日韓交流促進のためのものだ。未来に大胆な投資をして、過去の歴史を解決するための新しい環境をつくっていかなくてはならない」

――日本国内には韓国の政権交代を懸念する見方があります。

「韓国の政治の変化で日韓の合意が覆されるとの懸念だろう。両国関係が良好な時に、後戻りできないほどのしっかりとした礎を作ることが大事だ」

――日本も今、政治の混乱が続いています。日韓関係に影響はありますか。

「日本の政局について私が何かを発言すべきではないが、仮に日本の指導者が代わっても日韓関係を戦略的に構築していくことに変わりはない」

――2025年は終戦から80年、日韓国交正常化から60年になります。

「25年は日韓にとって節目となる。小渕恵三首相と金大中大統領による1998年の日韓共同宣言をステップアップさせた新しい時代のビジョンが必要だ」

■朴喆熙(パク・チョルヒ)氏

 ソウル大日本研究所長などを経て23年3月から外交官を養成する国立外交院長に就任。尹氏の外交ブレーンの一人。大統領就任前に政策協議団のメンバーとして日米両国に派遣された。

□記者の目

日本側から「尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権になって日韓関係は万全になった」という言葉をしばしば聞く。日韓関係を重視する尹政権の信念に揺らぎは見えない。ただ、尹大統領の側近である朴喆熙外交院長の言葉からは韓国側の焦りがにじむ。尹政権を孤立させず、日本側からも十分な支援をしてほしいとの訴えだ。

元徴用工問題の解決策をめぐり、尹政権は日本の立場を踏まえ政府傘下の財団が日本企業に代わって判決金を支払う解決策を進めた。財団の運営は韓国企業からの寄付でまかなっているが、資金は枯渇する恐れがある。日本側も財団への資金拠出は賠償になりかねないとして拒否している。

韓国世論には「尹政権ばかりが日本に妥協している」との批判があり、財団へのさらなる資金拠出を韓国企業だけに求めにくい状況がある。日韓の経済界が設立した「未来パートナーシップ基金」の活用は、日韓双方が協力している姿を韓国国民にアピールする切り札になる。日本企業からも徴用工問題とは切り離した形で資金を得られるか、先行きは不透明だ。(聞き手はソウル支局長 藤田哲哉)