(朝日新聞 2024/03/07)
 徴用工問題の「解決策」を韓国政府が発表して1年。だが、問題がすべて解消したわけではない。歴史対立の克服には不断の努力と誠意が欠かせない――。その原点を忘れず、日本も関係を後戻りさせない道を模索すべきだ。

 元徴用工への賠償を日本企業に命じた韓国の司法判断に対し、1965年の日韓請求権協定で「解決済み」として賠償を拒む日本。立場が完全に食い違う中で尹錫悦(ユンソンニョル)政権が昨年3月、政府傘下の財団が賠償分を肩代わりして支給する解決策を打ち出した。

 これを機に「国交正常化以降で最悪」と言われた日韓関係は改善に向かった。首脳同士の「シャトル外交」が12年ぶりに復活し、岸田首相と尹大統領の首脳会談は昨年だけで7回に及ぶ。日韓交流も官民問わず活発化している。

 だが、解決策に反発する一部の原告が支給金の受け取りを拒否したままだ。財団は裁判所への供託で乗り切ろうとしているが、法的に有効かどうかの結論は出ていない。

 一方で日本企業に賠償を命じる判決は次々に確定しており、韓国企業からの寄付などでまかなっている財団の財源不足が懸念されている。

 「解決策は日本への一方的な譲歩」との批判を和らげるためにも、韓国政府内には日本企業の協力を得たい思いがある。日韓の財界は解決策を機に若手人材の交流などを進める基金を設けた。未来を見すえた取り組みへの日本企業の前向きな関与を期待する。

 尹政権が日本との関係改善を進める背景には、北朝鮮の核・ミサイル開発などが続く中、安全保障面で日韓、日米韓の協力強化が不可欠との認識がある。こうした連携は日本にとっても有益だ。

 日韓にはほかにも共通課題が多い。韓国では23年の合計特殊出生率が0・72と過去最低を更新した。長時間労働による子育てと仕事の両立の難しさなど、日本と似通う要因も多く、対処に向けて協力を深めたい分野だ。

 それだけに、歴史問題で再び関係がこじれる事態は避けなければならない。

 尹大統領は日本統治下の「3・1独立運動」を記念する式典で、「歴史が残した難しい課題を共に解決していけば、より明るく新しい未来を切り開ける」と演説した。

 韓国の大統領が未来志向の日韓関係を強調したからといって、徴用工問題を「済んだ話」と考えるのではなく、日本として過去を直視する姿勢を示し続けることが大切だ。関係強化につなげるためにさらに何ができるか。知恵を絞らねばならない。