(朝日新聞 2024/07/02)
 1923年の関東大震災で虐殺された人を含む朝鮮人犠牲者の追悼式典に、東京都知事は2017年以降、追悼文を送っていない。なぜ送付は途絶えたのか。56人が立候補した都知事選(7月7日投開票)の主な候補はどう考えているのか。

 朝鮮人犠牲者の追悼碑は、大震災などの犠牲者らの遺骨を納めた都慰霊堂(墨田区)のそばにある。当時、朝鮮人が暴動を起こすといったデマが流され、多くの朝鮮人が殺された。

 日朝協会などでつくる実行委員会が74年から毎年、大震災のあった9月1日に追悼式典を開き、歴代都知事が追悼文を寄せてきた。

 現職の小池百合子氏も16年の初当選直後には送ったが、17年からとりやめた。慰霊堂での大法要で、全ての犠牲者に哀悼の意を表していることを理由としている。

■半年前の都議会で、自民都議が質問

 一方、送付をやめる半年前の都議会で、自民党都議が、追悼碑にある「誤った策動と流言蜚語のため六千余名に上る朝鮮人が尊い生命を奪われました」との記述は事実に反するとして、碑の撤去や追悼文送付の再考を求めていた。小池氏は、従来の送付は慣例的だったとし、「今後は私自身がよく目を通し、適切に判断する」と答弁した。

 その後、不送付が続く。小池氏は朝鮮人虐殺に関する認識を問われると、「様々な内容が史実として書かれている。何が明白な事実かについては、歴史家がひもとく」などと繰り返している。

 「史実は行政や首長が決めるものではないが、これにより朝鮮人虐殺は事実かどうか分からないとする強弁がお墨付きを得てしまった」。小池氏の判断の影響について、「TRICK トリック 『朝鮮人虐殺』をなかったことにしたい人たち」などの著書があり、朝鮮人虐殺の否定論を検証してきたノンフィクションライターの加藤直樹さんは指摘する。

 22年には、都の外郭団体の人権企画展で上映が検討されていた動画に関して、担当の都職員が追悼文の不送付に言及して「知事がこうした立場をとっているにもかかわらず、虐殺を『事実』と発言する動画を使用することに懸念がある」とのメールを送っていたことが明らかになった。

 追悼式典の実行委員長を務める宮川泰彦弁護士は6月17日、都知事選に際して記者会見し、「歴史の事実に向き合うことが求められている。誰が知事になっても、追悼文を送ってもらいたい」と求めている。

■候補者アンケート、分かれる対応

 朝日新聞は都知事選の主な候補6人に、追悼文不送付への評価や自身の対応について尋ねた。

 小池氏は「大法要において、先の関東大震災及び大戦で犠牲になられた全ての方々へ哀悼の意を表している」とし、「この考え、(不送付の)対応は今後も変わらない」と答えた。

 前参院議員の蓮舫氏は、追悼文をとりやめた小池氏の対応を「評価しない」とし、「主催団体から要請があれば、追悼文の送付を含め真摯(しんし)に検討したい」と答えた。

前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏は「責任ある立場として、歴史に向き合うべきだ。送付する」とした。

 AI(人工知能)エンジニアの安野貴博氏は「知事としては、全ての方に追悼の意が届くようにしていく必要がある」、

タレントの清水国明氏は「争点となりやすい被害者数などについて、事実関係を整理して対応を考えたい」、

元航空幕僚長の田母神俊雄氏は「送らない。今の日韓関係を考えれば日本悪玉論に拍車をかける」と答えた。(二階堂友紀)

◇関東大震災と朝鮮人虐殺 1923年9月1日、マグニチュード7・9の地震が起き、火災などのため10万5千人超の死者が出た。「朝鮮人が略奪や放火をした」「井戸に毒を入れた」といった流言が広まり、住民らによる「自警団」が朝鮮人らを殺害する事件が多発した。 政府の中央防災会議の報告書(2009年)は「虐殺という表現が妥当する例が多かった。対象は朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人(日本人)も少なからず被害にあった」と記している。