(朝日新聞 2025/01/03)
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する拘束令状の執行を試みた捜査当局が大統領の警護機関に阻まれ、身柄を確保できなかった。両者が対峙(たいじ)した約5時間半、公邸では何が起きていたのか。捜査当局と大統領側の攻防は今後、どう展開していくのか。
合同捜査本部に加わる「高位公職者犯罪捜査処」(公捜処)の関係者によると、この日、拘束令状の執行を試みた公捜処と警察の約100人の捜査員らは、3段階で行く手を阻まれた。
公邸の敷地に入る鉄製の門を通り抜けた捜査員らは、道をふさぐように横付けされたバスなどの車両によって2度、立ち往生した。
バスを何とか避け、坂道を上って公邸の建物まであと約200メートルのところまで迫ったが、大統領警護処の警護員や、警護処の統制下にある軍部隊の計200人以上が壁となって立ちはだかった。
公捜処側の人員の約2倍の数で、「幾重にも取り囲んでおり、(公邸に)入れる状況ではなかった」という。
協議の末、公捜処の検事3人が公邸の前で尹氏側の弁護士2人と面会した。弁護士は、公捜処には内乱罪の捜査権はないとする従来の主張を繰り返し、令状の執行を拒否したという。
この過程で「大小のもみ合い」も起きた。もみ合いには加わっていないものの、警護員側には武器を所持している人もいたという。警護処は大統領やその家族らの警護を担い、職務を遂行するために必要と処長が認めたときは武器も携帯できる。
結局、合同捜査本部は「安全に対する懸念が大きい」とし、警護処との約5時間半の対峙の末にこの日の執行を断念した。
尹氏は国会の弾劾(だんがい)訴追を受けて職務が停止されているが、身分は現職の大統領であり、警護処の警護を受け続けている。
警護処は警察とは別組織の政府機関で、これまでも大統領府の家宅捜索などを拒んできた。根拠としているとみられるのが、「軍事上の秘密を要する場所」は、責任者の承諾なしに押収や捜索ができないなどとする刑事訴訟法の規定だ。
韓国メディアによると今回の捜索令状には、こうした刑事訴訟法の規定を適用外とすると記されているが、警護処はこの日も令状の執行を拒み続けた。
トップである処長は大統領が任命するが、忠誠心が強い側近が任命されることが多い。尹氏に非常戒厳の宣布を建議したとされる金竜顕(キムヨンヒョン)前国防相も、かつて尹氏の警護処長を務めた。
この日の令状の執行が見送られると、公邸周辺に集まっていた尹氏の支持者らからは歓声が上がった。支持者の女性(72)は「家事も手につかずここに来た。大統領に何の過ちもない。大統領が復帰するまで街頭に出てくる」と話した。

▲尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の公邸付近では、支持者らが拘束令状執行に抗議する集会を開いた。捜査当局が執行の見送りを発表すると、支持者らは歓声を上げた=2025年1月3日午後2時1分、ソウル、太田成美撮影
聯合ニュースによると、集会の参加者は、警察の推計で午前7時ごろの約600人から、午後4時前には約1万2千人に増加。周辺は前日から厳重な警備が敷かれ、この日は警察の機動隊員約2700人が配置されて、令状執行に入る捜査員らと尹氏の支持者らが衝突しないよう統制した。
■平日に執行 支持者との衝突回避か
合同捜査本部は拘束令状の執行日に、韓国では平日である3日を選んだ。公邸周辺では尹氏の支持者らが拘束に反対する集会を続けており、週末になると、さらに人数が増える可能性がある。その中で執行に乗り出せば、尹氏の支持者らと衝突する危険性も高まる。
拘束令状の有効期限が6日であることも意識した模様だ。ぎりぎりの日程で執行した場合、拘束できなかったときに期限内に再び試みるのが難しくなるためだ。
3日の執行は大統領警護処の抵抗で結局、中止に追い込まれた。公捜処は3日夜、「警護処の警護が続く限り、令状執行が事実上不可能な状況」だとし、大統領の権限代行を務める崔相穆(チェサンモク)経済副首相兼企画財政相に対し、令状執行に応じるよう警護処に命じることを強く要求する予定だとした。
また、合同捜査本部は3日、拘束令状の執行を妨害した疑いで、警護処長らに4日までに出頭するよう要請したことも明らかにした。処長らは応じないとみられるが、これを再執行に向けた布石とみる法曹関係者もいる。
ただ、再び執行に乗り出しても警護処が受け入れる保証はなく、公邸周辺に集まる尹氏の支持者らの反発もさらに高まるとみられ、執行は簡単ではないとの指摘がある。
韓国メディアの間ではこのほか、裁判所に対して令状の期限延長を要請する可能性や、拘束令状の次の段階である逮捕状の請求に踏み切る可能性も指摘されている。
再執行で尹氏の身柄を拘束した場合には、尹氏を取り調べたうえで、48時間以内に逮捕状を請求するか、釈放するかの判断をすることになる。
■弾劾裁判 14日に初弁論 尹氏は徹底抗戦の構え
尹氏は捜査に対してだけでなく、憲法裁判所での弾劾審判でも徹底抗戦する構えを維持している。
弾劾審判の第2回弁論準備手続きが3日に行われた。憲法裁はこの日で準備手続きを終え、14日に初弁論を開くと明らかにした。尹氏を罷免(ひめん)するかどうか判断する審理が本格化する見通しだ。
尹氏側は3日の準備手続きで、弾劾訴追の適法性を争う姿勢を改めて示したが、弁論の準備や審理には十分な時間が必要だと主張した。
一方、憲法裁は2回目の弁論を16日とし、「1回目の弁論期日に被請求人(尹氏)本人が出席しないことに備えて決めた」と説明した。尹氏による非常戒厳の宣布後に混乱が続いていることを踏まえ、審判の進行を急ぐ狙いがあるとみられる。(ソウル=貝瀬秋彦、太田成美)

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