(朝日新聞 2025/05/10)
この春、「高校無償化」制度の対象が広がった。しかし、2010年の制度開始から全国に10ある朝鮮学校は除外が続き、今回も対象とされなかった。「差別だ」との批判は続いているが、無償化を訴える人の中にも「学校側も変わるべきだ」という意見がある。
■「ルーツに誇りを持って生きたい」
3月7日夕、文部科学省前に、東京朝鮮中高級学校(東京都北区)の生徒110人が集まった。生徒は「自分のルーツに誇りを持って生きたい」「朝鮮の言葉や文化を学べる場所は朝鮮学校だけ」と訴え、「無償化を適用せよ」と叫んだ。在校生や日本人支援者らが毎週抗議する「金曜行動」は、この日が560回目だった。
高校無償化制度は、今年度から、生徒1人あたり年11万8800円を上限に、就学支援金が所得制限なく給付される。文科省によると、「全ての意志ある生徒の学びを保障する」という趣旨に沿い、従来、中華学校やブラジル人学校などの外国人学校も対象とされたが、朝鮮学校は外されてきた。
旧民主党政権から不適用が続き、13年に自公政権が正式に除外を決めた。下村博文文科相(当時)は「拉致問題に進展がなく、(北朝鮮を支持する)朝鮮総連と密接な関係にある」などと説明し、北朝鮮との関係を理由に挙げた。
■教育方針は「コリアンとして日本に溶け込む」、北から支援の訳は
東京朝鮮中高級学校のウェブサイトなどによると、朝鮮学校は、日本統治時代に母国語を奪われたとして朝鮮人が戦後、各地に建てた講習所が起源。資金繰りが厳しく、韓国からの支援がない中、1950年代後半以降、北朝鮮の資金援助を受けてきた。朝鮮総連系メディアは、援助は25年も続いていると報じている。
同校の尹太吉校長は現在の教育方針については「コリアンとして日本社会に溶け込んでほしいと教えている」と話す。
尹校長によると、生徒は在日4世が多く、日本語が母語。3~4割が日本の大学に進む。日本企業に勤める卒業生もおり、なかには弁護士になった人もいる。韓国ドラマや恋愛話で盛り上がる姿は日本の高校生と変わらない。
授業は朝鮮語が基本。在日に関わりの深い日本の植民地支配の歴史も教えるが、日本語や理数科目などは日本の教育内容に準じるという。
一方、北朝鮮の現代史も教え、教科書では故金日成(キムイルソン)主席や故金正日(キムジョンイル)総書記らに「敬愛する」などの敬称がつくという。修学旅行は同国に「祖国訪問」する。
尹校長は「日本の一般の人からしたら奇異に見えるかもしれないが、一番苦しい時に助けてくれた祖国と民族教育は切り離せない」と語る。複数の保護者や教師、生徒からも同様の声が聞かれた。
尹校長は、拉致問題は「もちろん『間違ったこと』と教えている」と話す。また、教育内容について「国の指導者を尊敬するのは悪いことでしょうか」とも語った。
■抗議の決意、無力感、北朝鮮との関係 卒業生が感じること
学費は月約3万円。自治体の補助打ち切りも近年相次ぎ、尹校長は「朝鮮学校への進学をあきらめる家庭もある」と話す。文科省によると、全国10校の生徒数は23年は802人で、14年の1521人からほぼ半減した。在日社会には、学校存続を危ぶむ声もある。
金曜行動に参加してきた朝鮮大学校(東京都小平市)の学生(18)は「同胞社会の中心である学校をなくすわけにはいかない。抗議はずっと続ける」と語る。
都内の私立大に通う朝鮮学校出身の男性(20)は毎月、都内の駅前で無償化適用を訴えるチラシを配る。朝鮮人としての自分を肯定してくれた居場所を守りたいが、長年除外が続き、「正直、無力感を覚えます」。チラシを受け取った人がいても、「すぐ捨てるんじゃないか」と後ろ姿を見られないという。
関東の朝鮮学校を卒業し、日本企業に勤める女性(26)は、北朝鮮の人権状況に疑問を感じる時もあるというが、「マイノリティーの民族教育は、国のような確固とした理念を掲げないと続けられない」と同国との関係を受け入れてきた。その一方で、「日本社会の北朝鮮への評価が変わらない限り、朝鮮学校も受け入れられないのかもしれない」と打ち明ける。
■全国5件の訴訟で敗訴、国連委は差別是正を勧告、識者「学校側も教育内容広く議論を」
朝鮮学校の無償化除外をめぐっては、13~14年に卒業生らが全国5地裁で取り消しを求めて国を提訴。「教育とは無関係な外交的、政治的判断」(17年の大阪地裁)として除外を違法とする判決もあったが、いずれも最高裁まで争われ、原告が敗訴した。「北朝鮮の指導者を絶対視するような教育内容」(名古屋高裁判決)などに朝鮮総連の影響が見られ、教育基本法が禁じる「不当な支配」が疑われるなどとした。
北朝鮮を30年以上取材するジャーナリストの石丸次郎さん(62)は、朝鮮学校除外を「拉致問題を主な理由とした北朝鮮への『制裁』。直接関係のない子どもに責任を負わせており、差別だ」と批判する。国連人種差別撤廃委員会も14年と18年に朝鮮学校を差別しないよう日本政府に求める勧告を出している。
一方、石丸さんは、北朝鮮の人権状況は今も「世界最悪水準」だとし、朝鮮学校の教育の一部について「独裁体制を擁護する内容で良いのか」とも指摘する。近年の生徒減の背景に保護者の教育への疑問もあるとみており、「民族教育を続けるためにも、学校や総連は、コミュニティーを離れた在日も含めて広く議論してほしい」と話す。(平川仁)

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