(朝日新聞 2025/08/23)
 韓国の李在明(イジェミョン)大統領が23日に日本を訪問し、石破茂首相と会談します。就任後初めてとなる訪日を前に朝日新聞などからの質問に書面で回答しました。李氏とはどのような人物で、これまで日本に対してどのような姿勢で臨んできたのか。悪化と改善を繰り返してきた日韓関係の今の姿と、そこに至った背景を解説します。

 Q 李氏は6月の大統領就任以降、対日関係をめぐってどのような発信をしてきたのか。

 A 就任以降、日米韓協力や日韓関係の重要性を主張し続けている。日本との歴史問題についても、過去に両国間で確認した合意事項などを尊重する考えを示してきた。

 大統領選中も、日本について「緊密な協力関係を続けてきた重要なパートナー」だとし、「社会、文化、経済分野では前向きかつ未来志向的に対応していく」と主張していた。

■かつては日本に厳しい姿勢も

 Q 親日的な人物なのか。

 A かつては日本への厳しい姿勢で知られた。日本に対して「(朝鮮半島を)武力で占拠した侵略国家」「敵性国家」と発言したこともある。東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐっては、「人類と自然への重大な犯罪」と日本政府を非難した。対日関係を重視した尹錫悦(ユンソンニョル)前政権に対しても、「屈辱外交」などと批判を展開してきた。

 ただ、当選した大統領選以降、そのような発言は影をひそめている。

 Q 対北朝鮮政策の方向性は。

 A 尹前政権は北朝鮮に対して強硬姿勢をとって圧力をかけてきた。李氏はその路線を転換し、南北の緊張緩和に向けて融和的な姿勢を打ち出し、関係改善と対話の再開に取り組むと強調している。ただ、北朝鮮側は李氏の姿勢に対しても批判的な立場を明らかにしている。

■貧困の中、苦学の末に弁護士に

 Q 李氏はどのような経歴なのか。

 A 李氏は貧困の中、小学校卒業後に工場で働き、苦学の末に弁護士となった。人権派弁護士として活動後、ソウル近郊の地方自治体で市長や知事を務めた。

 首長としての政策実行力や過激な物言いで知名度を高め、2022年には進歩(革新)系最大野党・共に民主党の党代表に就き、同年の大統領選に立候補。尹氏に僅差(きんさ)で敗れた。豊富な内政経験の一方、外交経験は乏しいとの指摘もある。

 Q 今回の首脳会談のテーマや狙いは。

 A 両首脳は6月に訪問先のカナダで初めて直接会談した際に、日韓首脳が相互往来する「シャトル外交」の継続で一致しており、今回が第一歩となった。

 今回の会談では、日韓国交正常化から60年を迎えたことも踏まえ、日韓関係の安定的な発展に向けた協力などを確認する見通しだ。核・ミサイル開発を進める北朝鮮をめぐる情勢なども議論して、日韓、日米韓の協力強化での一致も目指す。李氏は書面で「未来志向的な協力の基盤を固める契機となることを願う」と会談への期待を記した。

 韓国大統領が就任後に米国より先に日本を訪れるのは異例で、トランプ政権に対応するうえでも、日本と安定的な関係を築きたいとの狙いがあるようだ。

■過去の合意や解決策を踏襲

 Q 歴史問題については。

 A 歴史問題をめぐる両国の合意や解決策としては、朴槿恵(パククネ)政権で15年、最終的かつ不可逆的に問題を解決するとした「慰安婦合意」や、尹政権が23年に示した元徴用工問題の解決策がある。李氏はこれらの合意について、「国家間の関係において信頼と政策の一貫性は非常に重要。簡単に覆せない」と踏襲する考えを書面で改めて示した。

 Q 過去の革新系大統領は厳しい対日姿勢の印象があるが、今後も良好なムードは続きそうか。

 A 同じ革新系の文在寅(ムンジェイン)政権では、慰安婦合意を空文化させるなど、日韓関係は「戦後最悪」と言われるほど大きく冷え込んだ。ただ、歴代政権を見ると、必ずしも革新系が日本との関係を重視していないというわけではない。

 理念先行とも言われた文氏と違い、李氏は「実用外交」を掲げ、現実路線で物事に対処すると繰り返している。韓国を取り巻く現状を考えると、日韓の協力関係を維持することが得策と考えているとみられるが、対日姿勢を転換させないか警戒する見方も依然として残っている。(山本恭介)

●日韓関係をめぐる最近の主な出来事(肩書は当時)

2018年10月 元徴用工訴訟で韓国の大法院が日本企業に賠償命令
    12月 韓国軍艦による自衛隊機へのレーダー照射問題
    19年7月 日本が半導体素材などの対韓輸出規制を強化
    8月 日本が韓国を輸出の優遇対象「ホワイト国」から除外
      韓国が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を通告
  23年3月 韓国が元徴用工訴訟の「解決策」を発表
      尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が来日し、岸田文雄首相と会談。シャトル外交再開で一致
    5月 岸田首相が訪韓し、尹大統領と会談
    8月 米国で日米韓首脳会談
  24年6月 レーダー照射問題の再発防止で日韓が合意
    7月 日韓の事前合意を経て「佐渡島(さど)の金山」(新潟県)が世界遺産登録
     10月 日本で石破茂首相の政権が発足
  25年6月 韓国で李在明(イジェミョン)大統領の政権が発足
       カナダで日韓首脳会談
       日韓国交正常化から60周年