(産経新聞 2025/08/23)
23日の石破茂首相と韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領との会談で、慰安婦やいわゆる徴用工を巡る歴史問題に関して過去の政府間合意を守る立場を取り、具体的な議論は行われなかった。かつて日本を「敵性国家」と呼んだ李氏は、対北朝鮮や対米関係の難しさから日本との連携を重視し、対立を回避。首相はこの機にシャトル外交を定着させ、対立を繰り返してきた日韓関係を安定軌道に乗せたい考えだ。
官邸に到着した李氏を出迎えた首相は、笑顔で会話しながら会場に向かった。首相が会談で「最初に日本を訪問していただき、大変心強い」と語ると、李氏は「それぐらい韓日関係を重要視しているとご理解いただければ」と応じた。会談は予定より長い1時間55分におよんだ。
保守系だった尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領は在任中、日本との安全保障・経済協力を歴史問題から切り離す方針を示し、当時の岸田文雄首相との間でシャトル外交を再開させた。しかし尹政権の徴用工問題解決策を「外交史上の最大の恥辱」と批判していた革新系の李氏が大統領に6月に就任。日本国内に「またゴールポストを動かされる」という懸念が広がった。
だが、李氏は会談で直接的な批判を展開せず、「歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」という首相の定形の説明を受け入れた。17年ぶりに発出した会談の成果文書は、歴史問題を逆戻りさせないよう「これまで築かれてきた日韓関係の基盤に基づき、日韓関係を未来志向で安定的に発展させていく」と明記した。外務省幹部によれば日韓が「築かれてきた基盤に基づく」との文言で両国関係の在り方を確認したのは初めてという。
参院選に惨敗した首相は、自民党内から退陣を突きつけられている。23日の共同記者発表で「両国の政府と国民が手を携え、より良い未来へ」と引き続き日韓関係の安定化を担う姿勢を強調したが、外交面で政権継続の正当性をアピールしたい思惑もにじむ。(田中一世)
(時事通信 2025/08/24)
石破茂首相は23日、韓国の李在明大統領を首相官邸に迎え、未来志向で日韓関係を安定化させる方針を確認した。大統領は今回、同盟国・米国より先に日本を訪問するという異例の対応を見せ、過去の対日強硬発言を踏まえた日本政府の懸念を一定程度和らげる形となった。ただ、韓国首脳は任期が終わりに近づくにつれて反日色を強める傾向があり、日本側の不安は消えていない。
「暑いでしょう」。首相官邸の玄関で出迎えた首相がこうねぎらうと、大統領は笑顔を見せた。首相は予定時間を上回る形で少人数会合と拡大会合をこなすと、公邸で夕食会を開催。その後も、両夫妻と通訳のみの懇談会でもてなすなど「個人的な信頼関係構築」(周辺)に心を砕いた。大統領は「絆と信頼が強く築かれた」と語った。
日韓関係は近年、革新系の文在寅元大統領の下で過去最悪と言われるまで悪化。保守系の尹錫悦前大統領の下で劇的な改善を見せたが、尹氏の失脚を受けて李大統領が6月に就任すると、再び悪化に向かうのではないかとの懸念が日本側で強まった。革新系の李大統領は過去に「日本は敵性国家」などと発言してきた経緯があったためだ。
ただ、就任後の李大統領は「実用外交」を掲げ、反日姿勢を封印。今月15日の「光復節」の演説では元徴用工など具体的な歴史問題に触れず、23日の会談後の共同記者発表でも「未来志向の協力の道を共に開いていこうとの信念の下で日本を訪問した」と強調した。
前日の22日はくしくも1910年の日韓併合条約調印から115年の節目。日本政府内には「センシティブな時期」(外務省幹部)との懸念もあったが、李大統領は訪日に踏み切った。日本政府内からは「日韓関係は当面心配ない」との声が漏れる。
ただ、警戒を解いたわけではない。韓国では過去、任期途中から反日姿勢を強めて政権浮揚を図ろうとする大統領が少なくなく、保守系の李明博元大統領ですら2012年、慰安婦問題に絡み、現職として初めて島根県・竹島に上陸した。
日本政府は23日の日韓首脳会談後、両首脳の「共同記者会見」の機会は設けず、記者の質問を受けない「共同記者発表」を行うにとどめた。「歴史問題の質問が出たら危ない」。日本政府高官は背景をこう語り、日韓関係の改善基調が薄氷の上に成り立っていることをうかがわせた。

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