(朝日新聞 2025/11/10)
 日韓両政府が初の自衛隊基地での韓国軍機への給油支援を計画していたが、直前で中止となったことが防衛省関係者への取材でわかった。支援予定の韓国軍機が日韓が領有権を主張する島根県の竹島(韓国名・独島(トクト))周辺を飛行していたことが判明したためだ。最近の良好な日韓関係を背景に両国は防衛協力の進展を図っているが、竹島問題など対立を抱えるなかでの難しさもある。

 複数の防衛省関係者によると、11月上旬に韓国空軍の曲技飛行隊「ブラックイーグルス」が航空自衛隊那覇基地(那覇市)に給油のために立ち寄る計画だった。韓国空軍機はその後、航空ショーに参加するため中東地域に向かう予定だった。

 だが10月30日、高市早苗首相と李在明(イジェミョン)大統領の韓国での初会談が行われる直前、日本政府は給油支援の中止を決定。10月下旬に竹島周辺の上空を通過した韓国空軍機について解析したところ、給油支援の対象の機体であることが判明したという。

 政府内には、それでも給油を実施すべきだとの意見もあったが、「中止しなければ、竹島は韓国の領土だとの主張を受け入れたとみられかねない」(防衛省幹部)として、首相を支持する保守派の反応も考慮して断念することになった。日本政府が竹島周辺での飛行について抗議すると、韓国側は航空ショーに向けた飛行訓練だと説明したという。

 複数の防衛省関係者によると、今月13~15日に開催される「自衛隊音楽まつり」への韓国軍楽隊の参加も、見送られることになった。給油中止の影響とみられる。防衛当局間の人的交流の活性化の一環で、9月の日韓防衛相会談で、参加を確認していた。

 自衛隊と韓国軍の間では、物資を融通しあう物品役務相互提供協定(ACSA)が結ばれていない。防衛省関係者によると、給油支援は自衛隊法の「無償貸し付け」の規定に基づき実施できるが、今回の支援をきっかけに、将来的なACSAの締結に向けた機運を醸成する狙いだったという。防衛省幹部は「日韓はこんなことさえできない関係なんだということを確認する形になってしまった」と肩を落とす。

■日韓防衛交流は再開したが…

 日韓の防衛協力は2018年、韓国海軍の駆逐艦による海自哨戒機への火器管制レーダー照射問題で大きく冷え込んだ。日本側の照射の主張を韓国側は否定。だが日韓関係の改善基調をうけて、昨年6月に照射の事実認定は棚上げして再発防止に合意した。以来、防衛当局間の交流を再開し協力の進展を図ってきた。

 トップ交流も盛んになっており、昨年7月に申源湜(シンウォンシク)国防相(当時)が韓国の国防相として15年ぶりに来日。今年7月には自衛隊の吉田圭秀統合幕僚長(同)が自衛隊制服組トップとして15年ぶり、9月には中谷元防衛相(同)が防衛相として10年ぶりに、それぞれ訪韓した。

 米国が同盟国に「負担の分担」を求めるなか、在韓米軍の削減も取りざたされている。両国を取り巻く厳しい安全保障環境を背景に、日韓で防衛協力を進めようという思いは共通する。

 長年の懸案となっているのがACSAだ。2012年には日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)とともにACSAの締結に向けた議論を進めようとしたが、日本による植民地支配を背景にした韓国国内の世論がネックになり、断念した経緯がある。ただ、今年8月に韓国の東アジア研究院などが実施した韓国での世論調査では、日韓の安全保障協力を強化すべきかとの問いに、75.5%が肯定的だと回答している。こうした世論の変化もあり、給油支援が浮上した格好だった。

 だが、竹島問題で日韓間の協力の難しさが改めて浮き彫りになった。5月には陸上自衛隊がフィリピンでの多国間訓練に関連して韓国海兵隊とも共同訓練を行うと発表したが、「二国間の訓練との誤解を生む」と韓国側が反発し、撤回したこともあった。海自幹部は「射撃のためのレーダーを照射してくるような相手を信用して、背中を預けられるわけがない。現場ではしこりが残り続けている」と本音を語る。(佐藤瑞季 矢島大輔)

■日韓の防衛協力をめぐる主な経緯(肩書は当時)

2018年12月 韓国海軍による海上自衛隊機へのレーダー照射問題が発生
 19年8月 韓国が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を通告(後に効力停止)
 23年3月 尹錫悦大統領が訪日。韓国側がGSOMIAの正常化を通知
 24年6月 レーダー照射問題の再発防止策で合意
   7月 韓国国防相が15年ぶりに訪日
 25年7月 自衛隊の吉田圭秀統合幕僚長が自衛隊制服組トップとして15年ぶりに訪韓
   9月 中谷防衛相が防衛相として10年ぶりに訪韓