(朝日新聞 2026/05/02)
ウクライナや中東など各地で戦争や紛争が続くなか、韓国政府は防衛産業の「4大強国」入りを目標に掲げ、その振興と兵器の輸出に力を入れている。根強い「自主国防」の意識を背景に防衛力を高めるとともに、経済成長にも結びつけたい考えだ。一方で、日本が殺傷能力のある武器輸出の全面的な解禁に踏みきったことへの警戒心も見え隠れする。
「KF21の成功は、単純な国防力の強化ではなく、韓国が世界有数の防衛産業強国と堂々と競争できる新たな動力を確保したことを意味する」
3月25日、李在明(イジェミョン)大統領は南部の慶尚南道泗川(サチョン)市で開かれた戦闘機KF21の量産1号機の出庫式でこう語った。
韓国の主導で量産に至った初の戦闘機で、開発費の一部をインドネシアが負担した。李氏は4月1日、訪韓したインドネシアのプラボウォ大統領との会談で、量産に向けた協力を確認。インドネシアを含む海外への輸出も視野に入れる。
■ポーランドへの輸出が急伸要因の一つ
李氏はポーランドのトゥスク首相とも4月13日にソウルで会談。2022年に結んだポーランドへの兵器供給などをめぐる約442億ドル(約7兆円)規模の包括契約に言及したうえで、防衛産業での協力をさらに拡大していく意向を示した。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、21~25年における主要兵器の韓国の輸出シェアは世界9位で、輸出は16~20年比で24%増加した。シェアは25年に限れば米国、フランス、イスラエルにつぐ4位だ。韓国国防省などによると、10年代後半は30億ドル前後の規模だった防衛産業の輸出額(受注ベース)は22年に173億ドルに跳ね上がった。
要因の一つがポーランドへの輸出の急伸だ。韓国メディアによると、ポーランドはロシアから侵攻を受けたウクライナに大量の兵器を提供し、その穴埋めとして韓国からK2戦車やK9自走砲などを調達することになったという。
■「自主国防」への根強い意識
韓国で防衛産業が発展してきた背景には、歴史や地政学的な状況に根ざした「自主国防」への根強い意識がある。
韓国防衛産業学会の資料などによると、1968年に北朝鮮のゲリラ部隊が韓国に侵入し、青瓦台(大統領府)の近くにまで迫ったことなどをきっかけに、当時の朴正熙(パクチョンヒ)大統領が国産兵器の開発に着手するよう指示。経済成長にも後押しされ、自国製の兵器や装備品が増えていった。06年には防衛事業庁が設置され、政府主導で輸出を支援する態勢も整った。
韓国政治では保守系と進歩(革新)系でことごとく意見が異なるが、「自主国防」については目立った対立はない。防衛産業を育てて兵器や装備品を積極的に輸出するという政策も歴代の政権で変わらなかった。
現政権が掲げる「4大強国」入りも、尹錫悦(ユンソンニョル)前政権の方針を基本的に引き継いだものだ。李氏がKF21の出庫式で述べた「今みなさんの前に立っているこの戦闘機は、我々が半世紀以上にわたって夢見てきた自主国防の熱い念願が込められている」との言葉が、こうした歴史を物語る。
■産業界が「日本が競争相手として浮上する可能性を注視」と報道
韓国防衛産業振興会の徐赫(ソヒョク)防衛産業政策研究センター長は「防衛産業は今や国家の先端戦略産業であり、国の経済に大きく貢献している」と話す。また、兵器の輸出は韓国自体の安全保障の強化にもつながると指摘する。ポーランドに提供するK2戦車の一部は現地生産する計画が進んでいるが、それによって朝鮮半島有事の際にはポーランドから逆に調達することも可能になるという。
今後は輸出先や兵器の種類の多様化が課題となるが、近年の輸出拡大の状況を勘案すれば、李政権が掲げる「4大強国」入りも可能だと徐氏はみる。
一方、韓国内には、日本政府による殺傷能力のある武器輸出の全面解禁への警戒感もある。韓国外交省は「平和憲法の精神を堅持しつつ、域内の平和と安定に寄与する方向でなされることが望ましい」とするコメントを出したが、聯合ニュースは防衛産業界が「日本が軍艦分野を中心に競争相手として浮上する可能性を注視している」と報じた。徐氏も「(日本の)潜在能力は非常に高い」と指摘した。(ソウル=清水大輔、貝瀬秋彦)
(朝日新聞 2026/05/02)
韓国産業研究院(KIET)は4月21日、韓国の昨年の防衛輸出受注額が154.4億ドル(約2兆4600億円)に達したとする報告書を発表しました。受注額はウクライナ戦争の影響から、2022年に過去最高額の173億ドルを記録した後、23年に135億ドル、24年に95億ドルをそれぞれ記録しました。なぜ、「K防産(防衛産業)」と呼ばれる韓国の武器輸出が好調なのか。KIETの沈淳炯(シムスニョン)研究委員は「韓国には防衛産業に対する死の商人というイメージはほとんどない」と語ります。
――韓国はいつごろから武器輸出を重視し始めたのですか。
韓国は10年代以降、国防費の増加率が鈍化しました。このため、国内市場だけで国防産業の持続可能な成長を保証するのは難しいという認識が広がりました。特に、国防費の増加率が1990年代の約10%から2010年代には約5%に減少しました。韓国政府や企業は海外市場の開拓や兵器輸出の拡大に、より積極的に取り組むようになりました。
――ウクライナ戦争やイランでの戦闘は「K防産」の成長にどのような影響を与えましたか。
ウクライナ戦争は欧州諸国の(兵器の)在庫不足と戦力の空白を生み、迅速な納入と価格競争力を持つ韓国製兵器が代替手段として台頭しています。中東でも防空誘導兵器の需要が大幅に増えました。(中距離地対空ミサイルの)天弓Ⅱ型などの性能が実証され、韓国の防衛産業への信頼が高まっています。国内企業による先行投資で供給能力も拡大し、レーダーや発射機などの関連産業も同時に活性化されています。
■ポーランドへの戦車売り込みに成功
――報告書は景気回復の理由として「大型契約の増加」を挙げました。
大型契約の増加には、ポーランドへの(K2戦車の)輸出が最も大きな影響を与えました。迅速な納入、生産能力、価格競争力だけでなく、購買国のニーズを把握する情報収集能力、(売り込むための)トップ外交、政府全体の支援を組み合わせることで、韓国の受注競争力が高まりました。購入国が求める現地生産や技術移転の条件を受け入れたことが、大規模契約獲得の重要な要素になりました。
――報告書はまた、「品目の多様化」を挙げています。
韓国の兵器輸出は10年代までは、航空機や艦船分野に比較的集中していました。しかし20年代には、航空、火力、艦船、機動、誘導兵器など多様な分野で輸出成果が表れています。例えば、FA50(軽戦闘機)のような航空機、K9自走砲のような火器システム、K2戦車のような機動装備、天弓II型のような誘導兵器システムなどです。
韓国軍のニーズを基盤に開発、量産された主要兵器体系が、世界の安全保障環境の変化や購買国のニーズと一致した結果だと思います。
近年では、単純な完成品の輸出にとどまらず、通常兵器中心の輸出体系から先端兵器体系、核心部品、整備、補給物資支援、現地生産協力など、輸出形式や協力範囲を広げようとする努力も生まれています。
韓国の兵器輸出は従来の通常兵器・完成品中心の構造から、様々な兵器システム、部品、サービス、産業協力を含む方向で拡大しています。
――日本の防衛産業は、株主から「死の商人」と批判されることを心配しているようです。
韓国は1970年代以降、北朝鮮の軍事的脅威に対抗するため、「自主国防」を重要な国家課題として推進してきました。この過程で、防衛産業は単なる兵器生産産業ではなく、国家安全保障を支える必須の産業基盤として認識されてきました。韓国社会は防衛産業を単なる「戦争を生み出す産業」としてではなく、国家の生存と抑止力を確保する産業として評価される傾向が強いのです。
ウクライナ戦争以降、防衛産業に対する国際的な認識もある程度変化しました。民主主義国家や同盟国の防衛力を支援し、抑止力を維持する産業としての役割が改めて証明されました。(防衛産業に対する)ESG(環境・社会・ガバナンス)をめぐる否定的な見方は以前よりも緩和されました。
韓国の世論では「K防産」は単なる兵器輸出の拡大という意味を超え、国家安全保障の強化、ハイテク産業の競争力確保、輸出産業の育成、雇用創出と結びつき、肯定的に評価されています。
ただ、今後は輸出対象国の人権問題や紛争関与の可能性に関して、より厳格な管理と透明な輸出管理体制が必要だという問題意識も生まれているとみています。
――防衛輸出対象国の数は、2024年の14カ国(21プロジェクト)から25年は17カ国(28プロジェクト)に拡大しました。
韓国政府は在外公館と駐在武官に対し、「K防産」の広報と輸出支援の役割を強化するよう求めています。駐在武官は現地の安全保障環境や兵器システム需要の把握、RFI(価格や納入時期、輸入条件などの情報提供の依頼)などの早期取得、国防外交チャンネルを通じて韓国兵器システムへの信頼を高める役割を担っています。こうした現地情報の収集、政府全体の支援、購買国の条件に合った産業協力パッケージを組み合わせることで、輸出市場を拡大できるのです。
■米独兵器のように高性能ではないが、安価で大量生産可能
――韓国の兵器は、米国やドイツほど高性能ではないが、安価で大量に生産できる強みがあると聞きます。
韓国軍用と輸出用で、兵器システムの基本プラットフォームは同じです。ただ、購入国のニーズに合わせ、詳細な仕様がしばしば異なります。通信装備、センサー、武装、ソフトウェア、保守システムなどは、輸入国の運用環境、予算、既存装備との相互運用性に応じて調整されます。
韓国の兵器輸出戦略は、米国やドイツ製の高性能兵器と正面から競争するのではなく、合理的な価格、迅速な納期、大量生産能力、購入国に合わせたカスタマイズに強みがあると思います。
ただ、価格競争力の確保や購入国のニーズに応える過程で海外の部品の使用が増えると、韓国内の中小パートナー企業がサプライチェーンから除外される可能性があります。従って、将来的には輸出拡大とともに国内防衛産業システムの強靱(きょうじん)性を確保し、中小企業が参入できる基盤を維持することが重要です。
――防衛産業は有事に大量生産を要求されますが、平時に大規模な生産設備を維持することが負担になります。
韓国では、政府が防衛産業の生産基盤をより直接的に管理すべきだという問題意識も存在します。しかし、国有化は競争の減少、経営の非効率、政治的議論を伴う可能性があるため、まだ本格的な政策の代替案として議論されていません。
代わりに、韓国は防衛産業物資指定制度を通じ、国家安全保障に重要な兵器システムや部品を管理しています。指定により、生産や輸出入などについて政府の管理・支援を受けることで、核心的な生産基盤が急速に弱体化しないように管理する制度です。
さらに、韓国政府は防衛産業物資の生産基盤の調査やサプライチェーンの実態調査を行っています。長期的には、特定の部品や原材料の供給障害を早期に把握できる防衛産業サプライチェーンの早期警戒システムの確立も重要な課題として検討されています。(聞き手・牧野愛博)

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