(東亜日報2026/06/04)
「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」などで知られ、「日本漫画の父」とも評される手塚治虫(1928~89)が日本国内の在日朝鮮人をめぐる差別問題を描いた短編漫画「ながい窖(あな)」が56年ぶりに復刻された。手塚は生前、日本の軍国主義を批判し、「日本人として申し訳なく思います」と語ったこともある。今回の復刻を機に、作家とその作品世界への再評価が進むとみられる。

2日、朝日新聞によると、1970年に雑誌「サンデー毎日」で発表された後、作者の全集に収録されず「幻の作品」と呼ばれていた「ながい窖」が、法政大学出版局から同日出版された。全50ページの同作品は、第2次世界大戦当時、岐阜県の「戸狩山」防空壕で過酷な労働搾取と蔑視を受けた朝鮮半島出身男性を主人公としている。主人公は戦後、日本国籍を取得し、出自を隠したまま出世街道を歩むが、その後一連の出来事を通じて、根深い民族差別を経験することになる。

「ながい窖」は、在日朝鮮人差別問題を扱った手塚治虫の唯一の作品と評価されている。手塚治虫は生前、日本の軍国主義や民族差別に批判的な姿勢を示していた。彼は、在日本朝鮮人総聯合会の機関紙「朝鮮新報」の日本語版「朝鮮時報」1966年4月16日付に掲載された「私は広く呼びかけたい」と題する寄稿で、在日朝鮮人の民族教育を守ることに日本人も関心を持つべきだと主張した。彼はこの文章で、「朝鮮の人達は好きこのんで日本へやって来たのではありません」とし、「日本の軍国主義の犠牲となって、民族の歴史を奪われ、ふみにじられ、強制労働につかわれたかたがたです」と記した。さらに、「私は日本人として本当に恥ずかしく、申し訳なく思います」と付け加えた。

今回の書籍は、法政大学出版局が初めて出版した漫画作品でもある。復刻を主導した出版局の赤羽健氏は、「2023年、映画や文化、漫画でのマイノリティー(少数者)の描かれ方を調べていた時にこの作品と出会い、衝撃を受けた」とし、「最近、日本では外国人排斥の風潮が広がっているが、この作品を読めば差別される側の苦しみを考えるきっかけになるのではないかと思った」と朝日新聞に語った。(黃仁贊)

 手塚治虫の短編「ながい窖(あな)」を復刻 在日朝鮮人の苦しみ描く
(朝日新聞 2026/06/02)

 手塚治虫が1970年に発表した、在日朝鮮人をめぐる差別問題を描いた短編漫画「ながい窖(あな)」が復刻される。全集に収録されておらず、知る人ぞ知る存在だったが、「虐げられてきた人々の苦しみを多くの人に知ってほしい」と、学術書を手がける法政大学出版局の若手編集者が企画。6月2日に出版された。

■1970年に発表、全集には未収録

 「ながい窖(あな)」は、高度経済成長期の日本が舞台。朝鮮半島出身で日本国籍を取得した男性・森山が、差別を恐れるがゆえに出自を隠して会社で出世するが、あることをきっかけに根深い民族差別に直面せざるをえなくなり苦悩を深める――というストーリーだ。

 全50ページ。70年に雑誌「サンデー毎日」で発表されたのち、短編集「空気の底(下、初版)」(72年)の他にはどの作品集にも収録されていない。

 法政大学出版局の赤羽健さん(34)は2023年、映画や文学、漫画でのマイノリティー(少数者)の描かれ方を調べていた時にこの作品と出会い、「在日朝鮮人を主人公に据え、在日をめぐる差別の実態と当事者の苦悩をここまで真正面から描いた漫画は他にないのでは」と衝撃を受けた。

 作中では森山が、戦時中に岐阜県の「戸狩山」の地下壕(ごう)で過酷な労働を強要され、「鮮人」という蔑称でののしられ虐待を受けた時の恐怖や痛み、仲間たちの死などを思い出すシーンが何度も描かれる。この場所では戦時中、実際に、地下工場の建設工事が行われたことが知られている。

 近年は海外にルーツを持つ人々を排斥する論調がSNSなどで広がっているが、この作品に触れれば、差別を受ける側の苦しみが想像できるのではないか。赤羽さんはそう考え、手塚作品の著作権を管理する「手塚プロダクション」に復刻を打診し、実現したという。

 法政大学出版局が漫画を刊行するのは初めて。比較文学研究家や歴史学者、日韓関係研究者など識者6人による解説も収録し、作品の時代背景なども知ることができる。

 購入は全国の書店やインターネットで。問い合わせは法政大学出版局(03・5214・5540)まで。(林瞬)