(朝日新聞 2017/06/29)

 慰安婦問題の日韓合意に基づいて韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」による現金支給事業について、70%超の元慰安婦が受け入れる意思を表明した。だが、調査機関「韓国ギャラップ」が今年2月に実施した世論調査では、日韓合意について70%が再交渉を求めている。

 合意を推進する人たちは、「国民情緒」との間で葛藤している
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 ■メディアは前向き評価ためらい

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は今月12日、自民党の二階俊博幹事長との会談で、日韓合意について「韓国の国民が受け入れられないのが正直な現実だ。何よりも当事者である慰安婦のおばあさんたちがこの問題を受け入れずにいる」と述べた。

 しかし、和解・癒やし財団は昨年12月、合意時に生存していた元慰安婦46人のうち、34人が財団の現金支給事業を受け入れる意思を明らかにしたと発表している。事業の原資には日本政府が財団に拠出した10億円が使われている。

 現金支給事業を受け入れた元慰安婦(89)は取材に対し、合意について「安倍首相は誤りを認め、謝った。朴槿恵(パククネ)大統領も男性の大統領ができなかったことをした。ありがたい」と話す。

 合意後に亡くなった元慰安婦の次男は、生前に母親が語っていた言葉を明かした。「合意は十分ではないが、受け入れなければならない」

 ただ、受け入れを表明した34人の声が、韓国で報じられることはほとんどない。韓国外交省関係者は「国民情緒からみれば難しいだろう」と言う。一部の元慰安婦が公の場で合意を厳しく批判しており、それとは異なる記事は報じにくい雰囲気があるためだという。

 「泥水に足を踏み入れない。泥水が跳ね返るからだ」。韓国紙「東亜日報」の沈揆先(シムギュソン)顧問は5月25日、発足したばかりの文政権での日韓関係について考えるセミナーで、韓国メディアの記者についてこう述べた。

 沈氏は東亜日報で東京特派員や編集局長などを歴任し、現在は財団の理事も務めている。沈氏によると、財団が元慰安婦34人による現金支給事業の受け入れを発表した際、韓国の記者たちは「なぜこんなに多くの人が受け取ったのか?」「記事に書きたくない」といった反応で、大きく報じられなかったという。

 沈氏はセミナーで韓国メディアについて「これまであらゆる聖域を破ってきた。唯一残っているのが、韓日関係を報道するときの気持ちだ」とも語った。日韓合意について前向きに評価しようとすれば批判を浴びかねないため、記者やデスクの負担になっているとの見方を示した。

 さらに韓国では「韓日関係の問題だけは、国民の意見が100%正しいという前提で始まる場合が多い」とも指摘。多様な意見を交わす重要性を強調し、「国民情緒より国益が優先されるときもある」とも訴えた。

 ■合意の意義伝わらず

 財団の理事長を務める金兌玄(キムテヒョン)・誠信女子大名誉教授は、これまで元慰安婦の自宅などを回り、合意の意義などを説明してきた。その成果が34人の現金支給事業の受け入れだった。ところが、金理事長の説明を問題視する報道もあり、財団はより厳しい状況に追い込まれている。

 韓国のテレビ局「SBS」は今年2月の番組で、金理事長が元慰安婦に説明する様子を録音した内容を報じた。その中で金理事長は「受け取るものは受けるべきだ」と発言していた。

 この報道をめぐり、財団側は元慰安婦に対しては韓国政府と財団の設立準備委員会が計3回にわたって合意や財団について説明しているとし、「まるで財団が現金支給にだけ没頭したかのような報道をされたことについて、深い遺憾の意を表明する」と反論した。

 だが、こうした反論は広まらず、報道によって財団が高齢の元慰安婦に受け入れを無理強いしたかのような印象を残した。財団関係者は「何度も意義について説明しているのに、金理事長の一部の発言だけが取り上げられた」と悔やむ。

 財団関係者は慰安婦問題の日韓合意だけではなく、財団の事業についても「韓国には誤解が多い」として、「文在寅政権で検証し、その結果を公表することで、誤解を解くべきだ」と話す。

 一方、韓国政府高官は「文在寅大統領も(日韓合意の)再交渉が無理なのはわかっているはずだ」と言う。ただ、合意には世論の反発が強く、その背景には、安倍晋三首相が元慰安婦に「おわびの手紙」を送る案について「毛頭考えていない」と述べるなど、日本側の態度にも問題があったと指摘する。

 合意では日韓両政府が協力し、元慰安婦の名誉回復、心の傷を癒やすための事業を行うとしている。この高官は「日本政府は今からでも元慰安婦の感性に訴える取り組みをすべきだ」と求めた。(ソウル=東岡徹)

↓の続編です(取り上げるのが2週間遅いですが)。
2017年06月28日