ハングル落書き「犯人は韓国人」
(東京新聞 2017/08/15)
捜査中なのに偏向横行
奈良市の東大寺でハングルとみられる落書きが見つかった。ネット上では「間違いなく犯人は韓国人」と決めつける書き込みが相次いでいるが、容疑者は特定されていない。罪を憎むより前に、特定の国や民族に矛先が向いていないか。(池田悌一)
※別記事より
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東大寺の職員が国宝・法華堂に落書きを発見したのは八日の朝。欄干の側面に横約四十センチ、縦約十センチの範囲で、ハングルのような三~四文字と、目のような絵が書かれていた。
通報を受けた奈良県警奈良署は捜査を開始。同日夜、人名のようなものを何か硬いものでひっかいた疑いがあるとして、文化財保護法違反容疑で調べていることを明らかにした。
この直後からネット上には「犯人は韓国人以外にいない」「韓国人は早く自首しましょう」などの投稿があふれ、「韓国人は在日も含めて日本から消えて!」「バカしかいない国が韓国」と排外主義をあおるような書き込みも続いた。
一方、事件は韓国でも注目され、中央日報は「韓国人が刻んだとみられる落書きが見つかった」と報道。韓国内でもネットに「他国の文化財に落書きするなんて恥さらしだ」「ため息しか出ない」などのコメントが寄せられた。
東大寺の担当者によると、在日朝鮮人を名乗る人物から「私としても残念だ」といった電話もあったというが、本当に犯人は韓国人なのか。
奈良署幹部は十四日、「こちら特報部」の取材に「ハングルであることは確認した。防犯カメラの映像を解析するなどしているが、今のところ手掛かりはない」と説明した。「韓国人犯行説」については「そこまでいっていない」。容疑者像を絞り込むところまでは到達してないようだ。
在日コリアンはどう受け止めているのか。朝鮮にルーツを持つ法律家団体「在日コリアン弁護士協会」理事の金竜介弁護士は「排外的なものは感じるが、仲間内ではあまり話題になっていない。韓国や朝鮮という言葉に過剰反応する人がいるのは毎度のこと。なぜ落書きまで日韓の対立に持ち込もうとするのか分からない」と冷ややかだ。
実際、事件や災害を在日外国人と結びつけるヘイトスピーチ(差別扇動表現)は絶えない。昨年の熊本地震の際は「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」などのデマがネットで飛び交った。女性を乱暴した疑いで千葉大医学部の男三人が逮捕されたときは、作家の百田尚樹氏が自身のツイッターで「在日外国人たちではないか」とつぶやいた。
靖国神社に放火目的で不法侵入したとして韓国籍の男が有罪判決を受けたこともあるが、今回の落書きと韓国の接点は、まだ「ハングル」だけだ。それなのになぜ偏見が横行するのか。
静岡県立大の奥薗秀樹准教授(現代韓国政治外交)は「貴重な文化財への落書きなど許されることではない」と前置きした上で、「現時点で犯人は特定されておらず、あくまで捜査の進展を待つべきである。韓国に対する憎悪をあおろうとする人物が、意図的にハングルを使って犯行に及んだ可能性もあるだけに、韓国人による犯行と決めつけて書き込みをするのは適切ではない」と指摘する。
◇ヘイト書き込み「真偽見極めて」
ヘイトスピーチ問題に詳しいジャーナリストの安田浩一氏も、排外的なネットの現状に警鐘を鳴らす。
ヘイトスピーチ問題に詳しいジャーナリストの安田浩一氏も、排外的なネットの現状に警鐘を鳴らす。
「落書きという罪を憎むべきなのに、ネット上ではその憎しみが特定の国籍や民族に向かっている。犯罪を利用して特定の国を糾弾することを、面白がっているだけではないか。国民はネット情報の真偽を冷静にみていく必要がある。不確かな情報に踊らされない目を持つことが大切だ」
2017年08月09日
