(朝日新聞 2018/12/28)

 日韓両政府が慰安婦問題に関する合意を結んで28日で3年。文在寅(ムンジェイン)政権が元慰安婦を支援する財団の解散を11月に決めたことで、「最終的かつ不可逆的」な解決をうたった合意は空文化している。元徴用工や自衛隊機へのレーダー照射をめぐる問題も重なり、日韓は外交関係改善の手がかりを見いだせないでいる。(武田肇=ソウル、鬼原民幸)

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▲会談前に握手する岸田文雄外相(左)と韓国の尹炳世外相=2015年12月28日、ソウル市内、飯塚晋一撮影

 「韓国政府は(合意に基づいて日本が出した)10億円を突き返せ」

 ソウルの日本大使館近くで26日、慰安婦問題で日本政府に謝罪と賠償を求めて毎週水曜に開く集会があり、中学生を含む約500人が声を張り上げた。主催する元慰安婦の支援団体「正義記憶連帯」(旧挺対協〈ていたいきょう〉)は、合意は元慰安婦の意向に反していると破棄を訴え続けている。

 集会では、今年亡くなった8人の元慰安婦の半生が紹介された。うち数人は、日本の拠出金を原資とした1億ウォン(約1千万円)を「和解・癒やし財団」から受け取ったが、触れられることはなかった。女性家族省によると、合意当時に生存していた元慰安婦47人のうち34人が支給を受けたが、韓国メディアで報じられることは少ない。

 日韓合意は2015年末、朴槿恵(パククネ)前政権時代に結ばれた。安倍晋三首相による「心からおわびと反省」が明文化され、韓国側も評価していた。合意直後の世論調査で43%が肯定的だったことも、それを物語る。

 合意がぐらつき始めたきっかけは大統領選だ。17年3月に朴氏が弾劾(だんがい)・罷免(ひめん)され、大統領選では文氏を含む全ての候補が合意の破棄や再交渉を訴えた。

 日韓関係論が専門の国民大学の李元徳(イウォンドク)教授は「朴政権の評価と合意は別なのに一緒に批判され、失政というレッテルが貼られた。日本側の政府関係者らが『10億円を払って問題は終わった』と、おわびと反省の真意を疑わせる発言を繰り返したことも、韓国世論を刺激して悪循環が続いた」とみる。

 文氏は大統領に就任した後は、日韓関係の悪化を避けるため再交渉の方針を転換。ただ、これが市民団体から批判された。韓国政府が11月21日に、日本政府の同意を得ないまま財団解散を急いだのは、支持層に配慮する必要があったというのが専門家らの見方だ。

 次の懸案に浮上しているのは、日本が出した10億円のうち財団が使い切れなかった6億円の扱いだ。

 文氏は「両国が協議するのがよい」と述べるが、具体策は示していない。日本政府関係者は「日本は合意の履行だけを求めていればいい」と波風は立てたくないとの本音をのぞかせる。12月24日にソウルであった日韓外交当局の局長級協議でも、双方は慰安婦問題を取り上げなかったという。

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 ■元徴用工・レーダー問題も懸案に

 日韓関係には、慰安婦問題以外にも懸案がある。

 その一つが、韓国大法院(最高裁)が日本企業に韓国人元徴用工への損害賠償を求めた問題だ。韓国政府は「対応策をまとめる」と約束しているものの、初の確定判決から2カ月を経ても、「特定の日程が(韓国から)示されているわけではない」(外務省の金杉憲治アジア大洋州局長)という。

 もう一つは、海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍艦艇からレーダー照射を受けたとされる問題だ。両国の外交関係をさらに冷え込ませている。

 朴氏は、政権前半の2年8カ月にわたって日本と正式な首脳会談を行わなかった。そんな朴氏の対日外交を批判して登場した文氏が、日韓関係でつまずいたのはなぜなのだろうか。

 韓国の日韓関係の専門家は「重要な外交政策が、日本の専門家がほとんどいない大統領府で決められ、長期的な戦略より、支持率や市民団体の反応を気にする対応になっている」と指摘。韓国外交省関係者は「合意に関わった専門家が一線から遠ざけられ、若手には対日関係の仕事を忌避する空気が広がっている」と懸念する。日韓両政府は、現時点では外相や首脳の往来について議題にもできないのが実態だ。