(朝日新聞 2019/03/15)
日本勢のメダルラッシュにわいた平昌(ピョンチャン)冬季五輪・パラリンピック(韓国)から約1年。五輪会場が「負の遺産」の様相を一部で見せている。
アルペンスキーの高速系種目が行われた旌善(チョンソン)スキー場は五輪で使われた12会場のうち、唯一、運営主体が決まっていない。植林などして全面的に原状回復を求める国に対し、一部を残すよう要求する地元住民と地元自治体の江原道(カンウォンド)がもめているためだ。
※参考

今月上旬に訪れると、五輪・パラリンピック会場の時とはうって変わって殺伐としていた。入り口一帯には立ち入りを防ぐ鉄柵と有刺鉄線。「原状回復をやめろ」などと国を批判する横断幕。その前に並べたコンテナから地元住民が交代で出入りを監視していた。

▲原状回復をめぐってもめている旌善スキー場ではコンテナが置かれ、地元住民が監視している=韓国

▲旌善スキー場前にコンテナが置かれ、中で住民が監視している=韓国

▲旌善スキー場の原状回復をめぐり、韓国政府を批判する横断幕が張られている
ここは山林保護地域の原生林を伐採して一から造られた。そのため自然保護団体の要望もあり、大会後に植林などして大部分を原状回復するのが会場建設の条件だった。
だが、地元住民と現場を管理する自治体の江原道(カンウォンド)はゴンドラとその管理道路を残して観光に活用することを要求。所有する山林庁と対立している。地元住民は「闘争委員会」を結成し、昨年12月からは復元作業に入らせないよう見張りを続ける。
だが、地元住民と現場を管理する自治体の江原道(カンウォンド)はゴンドラとその管理道路を残して観光に活用することを要求。所有する山林庁と対立している。地元住民は「闘争委員会」を結成し、昨年12月からは復元作業に入らせないよう見張りを続ける。
闘争委員会顧問の張徳守(チャンドクス)・江原道議員(52)は「せっかく造ったのに五輪の遺産が残らない。観光と生態学習体験で地元を活性化したい。復元は人工的にやるのではなく、自然に任せるべきだ」と主張する。住民によると、会場建設の際に立ち退いた35世帯のうち、地元には3分の1しか残らなかったという。旧正月も見張りについたという男性は「会場跡を残さないと働く場所がない」と嘆く。
建設費は約203億円。新設した6会場で最もかかった。そのうえ、江原道は復元期間を約20年と見積もり、巨額な復元費用を原則すべて負担する。だが、予算のメドは立っていないという。
今後は江原道と山林庁、地元住民らで協議会を立ち上げて結論を出す方針。山林庁の担当者は「江原道は昨年から意見が変わった。ゴンドラと管理道路を残すことについて経済性や安全性、環境面から妥当なのかを話し合いたい」と話す。
一方、五輪終了時に運営主体が未定だった3会場のうち、スピードスケート会場の江陵(カンヌン)オーバルと、そり競技会場だったスライディングセンターは今年1月、ようやく決まった。

▲そり競技会場だったスライディングセンターは今季は使われず、入り口が封鎖されていた=韓国・平昌
ともに今季は使われず、そり会場は入り口の道路が封鎖されたままだ。江原道が全額出資する開発公社が運営することになったが、大会前の試算で江陵オーバルが年間約2億2千万円、そり会場が同約9千万円の赤字が見込まれる。競技会場の公費について国は近く調査結果をまとめ、一部を負担するか決めるという。
江原道などによると、平昌五輪の収支は約61億円の黒字。大会組織委員会は今月下旬に解散するが、その剰余金の一部などから6月には記念財団をつくる。五輪会場を管理する江原道の担当者は「後利用の計画をもっと綿密に立てるべきだった。赤字の穴埋めに財団の基金が使われれば、すぐに減ってしまう」と話す。

▲平昌の選手村は600戸分が完売。すでに住民が生活していた=韓国・平昌

▲ジャンプ会場でラージヒル(右)のジャンプ台は整備されていなかった=韓国・平昌

▲開閉会式会場は解体され、聖火台が残っている=韓国・平昌

▲解体された開閉会式会場には聖火台が残る=韓国・平昌

▲聖火台には、フィギュアスケート男子で2連覇を達成した羽生結弦ら全種目のメダリストの銘板が取り付けられていた=韓国・平昌
◇日本にも「負の遺産」
冬季五輪の競技会場に関して、日本にも「負の遺産」がある。1998年長野五輪で使われた長野市営そり施設スパイラルだ。維持管理費がかさむため今年度から製氷が休止された。その結果、ボブスレー女子の日本代表は「絶滅」の状態だ。
平昌五輪でボブスレー日本代表は男女とも出場を逃した。再起をかける男子は先月、海外遠征から帰国し今季の活動を終えたが、女子は昨季終了後に引退したりスケルトンや他の競技に転向したりして今季は活動していない。国内で唯一、ボブスレーができるスパイラルの製氷休止が決まった際、関係者が「(ボブスレーは)絶滅危惧種になる」と恐れていたのが現実となった。
日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟は昨年、タレント発掘のトライアウトを開いたが、女子は思うような人材を見つけられなかった。
リュージュ、スケルトンも合わせた日本連盟登録のそり競技人口は1月末時点で114人。だが、練習環境はほとんどなく、今季は日本選手権が開催できなかった。リュージュはジュニア世代3人の育成にとどまり、2年前の全日本選手権を制した田中祥兵は、雪上のコースを使う非五輪種目の「ナチュラル・リュージュ」に転向し、新たな活躍の場を求めている。
日本連盟の北野貴裕会長は、「ボブスレーは体力や適性があるので誰でも良いというわけにはいかない。(人材)発掘テストは続けていきたい。(練習環境がほとんどない)このままだと、スケルトンやリュージュの選手は絶滅するかも知れない」と話す。(笠井正基)
羽生結弦 オリンピック フレーム切手 2018年 平昌 冬季オリンピック 五輪 記念切手

羽生結弦 オリンピック フレーム切手 2018年 平昌 冬季オリンピック 五輪 記念切手


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