中国新彊ウイグル自治区で漢族とウイグル族が衝突し、197人(当局発表)が死亡した「ウルムチ暴動」から7月5日で10年を迎える。現地では中国当局のテロ対策が進み、ウイグル族側にはそれが圧力のように受け止められる。ウイグル族をめぐる問題は米国の関心事でもあり、主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)での米中首脳会談の焦点として浮上しつつある。

◇バザール様変わり

 ウルムチ市の市場「国際大バザール」には、イスラム教を信じる少数民族ウイグル族の店が集まる。民族色豊かなこの観光スポットにも近年、中国国旗や春節(旧正月)の時に飾られる赤いちょうちんが掲げられ、漢族の装いが目立つようになった。

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 建物は伝統的なイスラム建築だが、客の大半が中国の大多数を占める漢族だ。6年前に記者が訪れた時に比べて店に並ぶ商品の数は豊富になっていた。だが漢族を当て込んだ広告が目立ったり、漢族が好むような菓子が多く売られていたりして、すっかり漢族向けの市場に様変わりした。

 「社会の安定、社会主義の法制、民族の団結を守ろう」とのスローガンを書いた看板が目立つ場所に設置されていた。周辺では監視カメラが行き交う人を撮影していた。入り口では新たに荷物検査が義務づけちれ、市場では私服警官が不審者に目を光らせていた。

 「本当は海外に行きたいけど、最近はそれも難しい。いろいろ事情があって」。バザールで働くウイグル族女性のイーアンさんが言いよどむ。ウイグル族店員に次々に話しかけ、生活ぶりを聞いた。だが多くが、ひとしきり商品の説明をしたあと口を閉ざした。

◇厳しい「テロ封じ」

 中国当局は、イスラム教の過激思想の影響を受けた人物がテロに関与しているとみる。彼らの動きを封じ込めるため、当局は「職業技能教育訓練センター」を設置し、ウイグル族を集めて教育する。ただ「センターでは、洗脳教育や拷問、暴行が繰り返されている」と、国外からの証言が後を絶たず、米国などが批判の対象としている。

 店のウイグル族女性に「施設のことを知っているか」と尋ねたが、「聞いたことがあるが、詳しくは知らない」と下を向いた。

 ウイグル族の現状を証言する人物が中国国外にいた。記者は、自治区第2の都市カシュガル出身のそのウイグル族女性(30代)に連絡を取り、女性から現地情報を聴いた。

 女性は2000年代後半に国外に留学。その後、年1度のペースで15年ごろまで帰省していた。だが、家族は「戻ってきたら拘束されるかもしれない」と帰国をやめさせ、郵便のやりとりも控えている。

 女性は国外から電話やSNSなどでカシュガルの家族や知人と連絡を取り、地元での出来事を断片的に聞かされた。

 「ウイグル族が集まる市場は昨年、多くが閉店して人の往来が減った」

 「小学校の校舎は『再教育施設』になった」

 「あるウイグル族一家は当局側から土地名義の変更を求められ、拒むと家を壊され財産を没収された」

 「イスラム教徒だった洋服店店主は、家で友人とイスラム教を学習したことなどを理由に死刑になった」

◇「本音を言えない」

 昨年夏、母親に電話した際、こう告げられた。「私から連絡するまで、絶対に電話しないで」。その後、家族との連絡は途絶えた。

 「身近な人がどんどん施設に入れられている。イスラム教の熱心な信者、社会的に影響力のある作家や文化人、大学の教員、サッカー選手。トルコやエジプト、サウジアラビアといったイスラムの国に渡航経験のある人物も収容対象になった。今では国内外を往来するだけで当局に疑われる。互いに本音を言えない状態が続いている」

 ウイグル族と漢族の間には目に見えない壁がある。ウルムチ市内で働く漢族男性(40)は「ウイグル族には中国語が話せない人がまだまだ多い。それでどうやって仲良くしろというんだ?」と話す。民族間の交流は乏しい。暴動のあと、ウルムチでは漢族は北へ、ウイグル族は南へと相手を避けて移住し、南北分断が進んだ。バザールはその南北の境目にある。

 中国政府は3月、「新彊の反テロ、脱過激化闘争と人権保障白書」を発表した。「イスラム過激派勢力が新彊社会の安定を害している」とし、14年以来、テロに関与した1万2995人を拘束し、違法な4858回の宗教活動を摘発したと報告した。一方で、ウイグル族の就業や教育、医療環境の改善に努めてきたと強調している。ウイグル族の意識を改め、経済的な自立を後押しするために教育の拠点が必要との立場を前面に押し出している。【ウルムチで工藤哲】
92940156232


(毎日新聞 2019/06/30)

・政府は「職業訓練の場」
・疑念多く国外から批判

 なるほドリ 中国新彊ウイグル自治区には「再教育施設」があると聞いたけど、どんなところ?

 記者 自治区内のウイグル族を集め、「再教育」していると国際人権団体や米国が批判している施設です。他の少数民族地域でこうした施設は伝えられていません。中国政府はテロを防ぐ「職業技能教育訓練センター」であり、基本的人権は最大限保障しているとの立場です。

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 Q だいぶ言い方が違うね。

 A 中国政府は、イスラム教の過激思想の影響を受けた人物が自治区などでテロに関係しており、こうした動きを広げないためにもセンターが必要だと主張しています。中では中国語が使われ、検察官や弁護士を招いて法律を学んだり、食品加工や美容などの職業訓練を行ったりして、再就職に役立っているとしています。

 Q どのような批判が出ているの?

 A 施設に入った後に家族と連絡が取れなくなった末、遺体が当局から返され、耳や口元にはあざが残っていたという証言もあります。国外の自治区出身者は「洗脳教育や拷問、暴行が繰り返されている」と批判しています。かつては、中国政府は施設の存在すら公式に認めていませんでした。しかし昨年10月以降、国際的な批判に応える形で公の制度に位置づけ、自治区内の当局が施設を設置できるとする法整備を進めました。

 Q 実際に効果は出ているの?

 A 中国政府は今年の政府活動報告で少数民族政策について「融和」から「教育強化」に方針を大きく転換し、「過激化の緩和に施設は有益」と成果を強調しています。実際にテロ発生件数は減っていますが、施設は日本の一般的な職業訓練所のイメージとは異なり、外部の人の出入りが制限されるなど国際的な疑念をぬぐい去るには至っていません。 回答 工藤哲(上海支局)