(朝日新聞 2019/07/01)

 トランプ米大統領のツイッターでの呼びかけからわずか1日で実現した3回目の米朝首脳会談。同氏は板門店で金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と「握手して2分間」と語っていたが、一転して1時間近く話し込んだ。南北の軍事境界線を挟んで再会し、トランプ氏が現職大統領として初めて北朝鮮の地を踏む「演出」もログイン前の続きあった。双方にはどんな思惑と計算があったのか。

 韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線上にある板門店。30日午後3時44分、韓国内外のテレビが生中継し、何人もの報道陣が待ち受けるなか、韓国側施設「自由の家」を出たトランプ氏が、北朝鮮の方向にゆっくりと歩き出した。

 板門店は、1953年に米国と中朝が朝鮮戦争の休戦協定を結んだ場所で、現在も米韓と北朝鮮の兵士がにらみ合う最前線だ。

 トランプ氏が軍事境界線に近づくのに合わせ、北朝鮮側施設「板門閣」からも、正恩氏が歩いてきた。午後3時45分、2人は軍事境界線を挟んで握手。トランプ氏は、左手で正恩氏の右腕を2回軽くたたいて笑顔を見せた。

 トランプ氏「この線を越えてほしいですか」

 正恩氏「そうしていただければ私は光栄です」

 トランプ氏は境界線をまたいだ。米国の現職大統領として初めて、北朝鮮に足を踏み入れた瞬間だった。数メートルほど一緒に歩き、韓国側に振り向いて2人で写真撮影に応じた。

 正恩氏は時折笑みを浮かべつつ、「この場所でお会いできるとは思っていなかった」と語った。トランプ氏は「大きな前進だ。ものすごい前進だ」と話した。

 約1分後、今度は2人そろって韓国側へ。自由の家の前で、待っていた韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領を交え、数分間、3人で立ち話した。現場の報道陣から感想を尋ねられた正恩氏は「歴史的な瞬間だ。不快な歩みに終止符を打ち、新しい未来を作り出したい」と語った。

 その後トランプ氏と正恩氏は自由の家で、3回目の米朝首脳会談に臨んだ。約1時間を経て出てきた正恩氏は満面の笑みを浮かべ、トランプ氏、文氏に見送られつつ、軍事境界線に向けて歩き始めた。

 その姿を手を上げて見送ったトランプ氏。文氏と会談場所に戻り、報道陣に自ら会談内容を説明した。オバマ前政権の対北朝鮮政策を批判しつつ、「交渉チームをつくることで合意した」などと「成果」を強調。繰り返される質問にも立ったまま応じ続けた。(鈴木拓也)

 ■トランプ氏、選挙へ「偉業」PR 正恩氏、制裁打開へ水面下接触

 「昨日の朝、トランプ大統領が(会いたいとの)意向を示し、とても驚いた」

 板門店の韓国側施設「自由の家」で開かれた米朝首脳会談の冒頭、正恩氏はこう語った。北朝鮮の非核化をめぐる米朝の協議は、今年2月にベトナム・ハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談が物別れに終わって以来、停滞が続いていた。3回目となる今回の首脳会談は電撃的に開催されたが、実は伏線はあった。

 2018年6月のシンガポールで初の首脳会談が開かれてから1年を迎えるころ、正恩氏がトランプ氏に親書を送り、これに対してトランプ氏が返信した。

 このやりとりは通常とは違うルートで行われた。北朝鮮内部の事情に詳しい複数の関係者によると、トランプ氏の返信はニューヨークの北朝鮮国連代表部を通じてではなく、米政府高官がわざわざ平壌を訪れて届けた。親書の交換を通じて高いレベルの接触が水面下で行われた可能性がある。

 正恩氏はトランプ氏の返信に、「興味深い内容について慎重に考えてみる」と述べた。韓国の北朝鮮専門家は「以前から板門店会談について米朝間でやりとりがあった可能性もある」とみる。

 トランプ氏は今回、現職の米大統領として初めて北朝鮮に足を踏み入れ、「とても歴史的なことだ」と強調した。同氏の狙いは、自分を「過去の米大統領が実現できなかった平和の立役者」として米国民と国際社会に印象づけることだ。

 念頭にあったのは、18年4月の南北首脳会談とみられる。韓国の文氏が正恩氏と手をつないで軍事境界線をまたぐ姿をテレビ中継で見たトランプ氏は、史上初となる米朝首脳会談を板門店で開くことを事務方に指示した経緯がある。以降、トランプ氏は正恩氏と板門店で会談する構想を温めていたようだ。

 また、6月下旬に行われた20年米大統領選に向けた野党・民主党候補のテレビ討論会も、会談実現を後押しした可能性がある。直近の世論調査によると、トランプ氏は大統領選のライバルとなるバイデン前副大統領ら民主党の有力候補に支持率でリードを許している。トランプ氏は板門店で正恩氏と会談する「歴史的偉業」を成し遂げ、メディアの注目を奪い返す狙いが見え隠れする。

 一方、正恩氏が会談に応じた背景には、行き詰まり状態にある米朝交渉を首脳同士の対話で打開し、自国有利に持っていきたい思惑があるとみられる。

 今年2月にハノイで首脳会談が決裂した際、正恩氏は「制裁緩和に道筋を付けられなかったことに衝撃を受けた」(韓国政府の元高官)とされる。正恩氏は実務協議に関わった金英哲(キムヨンチョル)党副委員長ら幹部の責任を追及。北朝鮮の内部事情に詳しい関係者によると、外務省職員ら数人が、外国の情報機関に協力したとして処刑されたという。

 ただ、板門店での会談によって双方が得た成果は、北朝鮮側が嫌っていた実務者協議の再開だ。首脳間で何らかの大枠の方向で認識の一致があり、その実現を担当の実務者に指示した可能性もある。(園田耕司、ソウル=神谷毅)

 ■韓国、成果求め「黒衣」に 中国、対話再開へ説得か

 「トランプ大統領こそが朝鮮半島の平和プロセスの主人公だ」

 韓国の文大統領は板門店訪問に先立ちソウルで開いた米韓首脳会談の共同記者会見で、会談の主役は米朝の首脳だと強調した。

 トランプ氏が訪韓前日に正恩氏との会談を提案したのは韓国にも寝耳に水だった模様だが、「米朝首脳会談の早期再開」を訴えていたのは文氏だった。板門店での会談も、韓国が示してきたアイデアの一つだ。

 米朝交渉の促進者を自任する文氏が「黒衣」に徹した背景には、2月の米朝首脳会談が物別れに終わって以降、北朝鮮が態度を硬化し、南北関係も微妙になっていることがある。

 支持率が低迷する文政権は、来春の総選挙に向け、南北関係で成果を得る必要性に迫られている。今後も米朝交渉を後押しし、南北関係を改善する環境を整える戦略とみられる。

 米朝首脳の電撃的な会談を受け、中国国営新華社通信は「朝鮮戦争後、朝鮮の国土を踏んだ初の現職米国大統領」などと伝えた。

 主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれた大阪での米中首脳会談。懸案の通商紛争で、習近平(シーチンピン)国家主席は米側から追加関税措置の見送りなどを引き出した。舞台裏は不明な点も多いが、北朝鮮問題がテコになった可能性もある。

 習氏はG20を目前に控えた18日、トランプ氏と電話会談。20、21日に北朝鮮を訪問し、正恩氏との会談で「国際社会は朝米が対話で成果を得ることを望んでいる」と語った。大阪でトランプ氏と向き合った習氏は「米朝首脳がすみやかに対話を再開するよう望む」と促し、「中国も建設的な作用を果たす」と述べた。

 中国は交渉再開を望む米朝の動きを見て取り、双方への影響力を示すためにも「米国との対話に応じるよう習氏が正恩氏を説得したのではないか」(北京の外交筋)との見方が出ている。

 (ソウル=武田肇、北京=延与光貞)

 ■米朝をめぐる過去と今後の動き

 <1950年> 朝鮮戦争が始まる
 <53年> 朝鮮戦争が休戦、軍事境界線を設定
 <2018年6月> シンガポールで初の米朝首脳会談。共同声明で、米国が北朝鮮の体制保証を約束し、北朝鮮は朝鮮半島の完全非核化を約束
 <19年2月> ベトナム・ハノイで2回目の米朝首脳会談。非核化をめぐる双方の溝が埋まらず物別れに
 <4月> 金正恩朝鮮労働党委員長が訪ロし、ロ朝首脳会談
 <5月> 北朝鮮が短距離ミサイルを発射
 <6月上旬> 正恩氏がトランプ米大統領に親書を送る
 <下旬> トランプ氏も親書で返信
 <20日> 正恩氏が、訪朝した中国の習近平国家主席と会談
 <30日> トランプ氏が朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)を訪問し、正恩氏と会談
 <12月末> 正恩氏が求めた米朝対話の期限
 <20年11月> 米大統領選


さすがに、まったくのトランプ大統領の気まぐれツイッターからのサプライズ会談ということではないようですね。

親書などで「次会うときは板門店で」のやり取りがあり、最後のきっかけがツイッターだったのか? ツイッター自体も演出としてシナリオに沿ったものなのか?