【こちら特報部】「地方の憲法」各地で逆風 しぼむ機運 裏に自民
(東京新聞 2019/12/24)
◇石垣市議会「自治基本条例廃止を」薄氷の否決
「地方自治の憲法」ともいわれる自治基本条例。全国の自治体の2割が制定している。その条例を廃止しようという動きが沖縄県石垣市で起きた。「制定時と時代が変わった」「市民に外国人も含むのか」。それが理由だった。市議会での採決の結果、僅差で条例は残った。しかし、こんな逆風が各地で吹きつつある。いったい、何が起きているのか。(石井紀代美、榊原崇仁)
■広い「市民」の定義 「外国人も含む」批判噴出
今月十六日、石垣市議会の十二月定例会は最終日を迎えた。約三十席の傍聴席は満席。関心の的は「石垣市自治基本条例を廃止する条例案」だった。可決されれば、一度制定した自治基本条例をなくす全国初の事態となる。「条例がたとえなくなったとしても多くの住民には関係ないと思います」。自民の石垣亨氏が壇上で述べると、すぐさま「何だー」と罵声が飛んだ。
ものものしい雰囲気の中、採決を迎えた。立ち上がって賛意を示したのは十人。座ったままだったのは十一人。一票差で廃止条例案は否決。傍聴席から拍手とともに「よしっ」「ありがとー」と歓声が上がった。
この条例は二〇〇九年、県内で初めて制定された「市政運営の最高規範」だ。居住者だけでなく働く人、学ぶ人、活動する人も含めて「市民」と規定。
市民と市が教育、自然保護など市政全般で協力し、まちづくりを進めていくとうたう。
廃止の動きが表面化したのは十一月五日。住民団体「自治基本条例を学ぶ会」が開いた講演会だった。講師の話は批判に終始した。中でもやり玉にされたのが、住民投票についての規定だった。参加した三十代の男性によると、「住民投票は議会の否定につながる」「市長も議員も責任を取らない」「百害あって一利なし」「石垣市が全国初で、自治基本条例を廃止してほしい」といった話が出た。
企画した市内の会社員山森陽平氏は「誰かから頼まれてやったのではない。この条例を『最高規範』と位置付けることに制定当時から違和感があった。似た考えを持つ仲間と話し合って企画した」と語る。講演会には自民党の市議が出席し、会の運営も手伝った。そして市議会に設置されていた自治基本条例についての調査特別委員会で議論が加速した。委員は自民など与党系が占めていた。
何が話し合われていたのか。「こちら特報部」が入手した非公開の議事録によると、「市民の定義があまりにも広すぎて外国人も含まれる」「あってもなくてもいい条例」と批判が噴出。中でも住民投票についての規定は「一定の制限が必要だ」と評判が悪かった。
ちなみに条例では、四分の一以上の署名で「市長は所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければならない」と定めている。「有権者の五十分の一以上」という地方自治法より署名集めのハードルが高い。
ただ、同法の手続きでは、さらに議会が認めなければ投票は行われない。条例ならば、署名さえ集めれば、投票を実施するのは市長の義務ということになる。
すでに住民投票を巡ってトラブルも起きている。
石垣市では、市民団体が一八年十二月、市民の四分の一を超える署名を市に提出した。防衛省が配備を計画するミサイル基地について住民投票の実施を求めたのだ。しかし、市は条例にある「所定の手続き」が決まっていないと拒否。法廷で争いが続いている。
こうした背景もあり、自民の市議が十二月議会に廃止議案を提出した。
前出の石垣氏は提案理由を「社会情勢の変化や二元代表制の円滑な運用には必ずしも有用ではない」と市議会で述べた。「社会情勢の変化」とは、観光客や外国人労働者が増加し、「市民」にこういった人たちも含むことのようだ。
ただ、採決では、自民と歩調を合わせてきた議員二人が反対に回った。その一人、特別委の委員でもあった箕底(みのそこ)用一氏は「おかしな条文は確かにある。特別委では、時代に合った新しい条例を作る条件で廃止に賛成した。だが、自民はそのつもりがないと後で分かった。強引に議案が提出された」と説明する。
■「憲法を逸脱」「国家否定
石垣市と同様の条例は全国に広まっている。NPO法人「公共政策研究所」によると、施行した都道府県と市区町村は一日現在、全国で三百九十、全自治体の21・8%になる。全国初は二〇〇一年四月の北海道ニセコ町だ。研究所の水沢雅貴理事長は「地方分権一括法が〇〇年四月に施行され、国と地方は『対等・協力』の関係に改まった。各自治体で『自分たちのことは自分たちで決める』という意識が強まり、制定につながった」と語る。
条例には、住民投票を盛り込むケースが多い。奈良県生駒市や川崎市のように、条例の「住民」に外国人を含めたり、その自治体への通勤者や通学者を入れたりする例が目立つ。
滋賀県米原町(現・米原市)は〇二年、全国で初めて永住外国人に投票資格を付与する住民投票を行った。四年後に自治基本条例を制定。一九年九月、その条例に基づいて住民投票条例を定め、永住外国人の投票権を明記した。
ただ近年、条例には逆風が吹く。条例の年度別施行数は一〇年度の三十八自治体をピークに一八年度は七に減った。条例制定の機運が立ち消えになった自治体もある。群馬県高崎市やさいたま市がそうだ。
水沢氏は「条例が広まらなくなった裏には自民党の動きがある」とみる。党のホームページで、それをうかがわせる文書が閲覧できる。「チョツト待て!!〝自治基本条例〟」と題したパンフレットで、国会図書館の蔵書検索では一二年一月の出版。自民党が下野していた時期だ。
「自治体の裁量権拡大と住民の自治意識を強調するあまり、憲法を逸脱していないか」「国家の存在を否定している」と疑問を呈し、「住民投票はあくまで参考」とつづる。さらに「投票の有権者資格は日本国籍を持つ者」とあり、外国人への警戒もうかがわせる。自民党は一四年六月にも各都道府県連に対し、制定の際には慎重な対応を求める文書を出した。
■地域課題は地域で自決 自治の具体的議論必要
しかし自治を軽んじていいわけがない。成蹊大の武田真一郎教授(行政法)は「地域の課題を一番よく知り、最も危機感を抱くのが地域住民。当事者そのものだからだ。地域で暮らす外国人も同じ。実情に沿った深い議論をするには、住民に近い場所で意思決定することが不可欠だ」と語る。
首長や議員の選挙でも民意は集約される。武田氏は「往々にして行政や議会は地域開発や利益配分に重きを置き、生活環境や財政事情に厳しい目を向ける民意と乖離(かいり)がみられる。だから住民投票でただすことが必要になる」と強調する。
もっとも水沢氏は各地の条例を「十分に生かせず、立派な理念を記しただけというケースが少なくない」と残念がる。そして水沢氏は「掲げた目標を実現するため、どんな制度が必要か、担い手の意識をどうはぐくむか、きちんと詰めないと意味がない。重要なのは、自治をどう具体化するかという議論。条例制定だけで終わらず、さらに踏み込んでほしい」と訴えた。
〈デスクメモ〉
各地で自治基本条例ができはじめた時、まじめに取り合う気が起きなかった。実効性が感じられなかったからだ。それは今も変わらない。だからといって自治の看板を下げろという動きには賛成できない。やはり「具体的に実のある内容にすべきだ」という方向からの批判が必要だ。(裕)2019・12・24


国民の様で国民でない
それは何かと尋ねたら
非国民❕ 非国民❕
specificasia
が
しました