(朝日新聞 2020/01/29)

 感染症対応で日本人の帰国を支援するため、政府が航空機を派遣したのは初めてだった。前例のない対応は決して順調に進んでいたわけではない。

 武漢市は23日、航空機の運航を停止するなど移動制限に踏み切った。これをきっかけに日本政府は「移動の自由を保障しなければならない」(首相周辺)と水面下で航空機派遣の検討を開始。茂木敏充外相も24日の記者会見で、航空機派遣を問われ、「事態の展開をみながら支援を準備していきたい」と表明した。

 事態はさらに深刻化した。世界保健機関(WHO)は「緊急事態」の宣言を見送ったものの、中国では25日に国外への団体旅行が禁じられ、武漢では一般自動車の通行禁止も発表された。

 政府は在留届や外務省の海外安全情報サービス「たびレジ」の登録者をもとに現地に滞在する日本人と連絡を取り始めると、帰国を望む声が伝わってきた。内閣官房の危機管理担当部署は土曜だった25日も休日返上で会議を開き、対応を協議。防衛省も政府専用機の派遣検討を本格化させた。

 一方で、政府の対応の遅れを指摘する声も出始めた。米紙が25日、米政府が現地に滞在する米国人を避難させる目的でチャーター機の運航を計画していると報道。フランス政府などでも同様の動きがあると伝えられた。ツイッター上では、「日本政府は何をしているんだ?」「日本政府は見殺しか」などと批判的な書き込みが相次いだ。自民党の山田宏参院議員は26日午前、「わが国も速やかに邦人救出に向かうよう官邸に要請してます」とツイートした。

 政府も準備は進めていたものの、首相周辺によると、中国側との調整は進んでいなかったという。こうした中、政府関係者は「26日朝から事態は一気に動いた」と明かす。

■首相表明の裏で

 安倍晋三首相は26日朝、同日中に航空機の派遣方針を発表する方針を決めた上で、調整を急ぐよう指示した。これを受け、北京の日本大使館の職員が武漢に向かい、国家安全保障局の北村滋局長も同日午前、中国の孔鉉佑(コンシュワンユー)駐日大使と断続的に電話会談して首相の方針を伝え、協力を要請した。

 首相は同日夕、公邸で官邸や関係省庁の幹部らを集めて報告を受けた後、「中国政府との調整が整い次第、チャーター機などあらゆる手段を追求し、希望者全員を帰国させる」と表明した。政府高官は「首相が表明した時点ではうまくいくかどうか分からなかった」と振り返り、見切り発車だったことを認めた。

 翌日以降にずれ込みそうだった茂木外相と中国の王毅(ワンイー)外相の電話会談が同日夜に前倒しになるなど、調整が加速。中国側の受け入れ態勢が整わず、28日午前に全日空機を2機飛ばす予定は延期を余儀なくされるなど直前まで混乱した。チャーター機がようやく羽田空港を発った28日夜、政権幹部は「まず米国と日本が発着枠をもらった。中国がどこを重視しているのかが分かる」と語った。(二階堂友紀、竹下由佳、太田成美)


>28日夜、政権幹部は「まず米国と日本が発着枠をもらった。中国がどこを重視しているのかが分かる」と語った。

こんなこと報じるから、韓国メディアが敏感に反応して、発言を記事のタイトルにつけて次々と報じていますね。
他にもいくつかのメディアがタイトルにつけて報じたり、記事内で取り上げてます。とりあえず今のところ、この発言に対する論評などはしていませんが、そのうち出てきそうですね。

まあなんにしても、中国政府にしてみれば、昼間に各国が複数機で次から次に来て、自国民を乗せて次から次へと“逃げ出す”様子を国民に見せたくはないでしょうから、日本は1機ごとで早朝出発になったんでしょうね。


日経もチャーター機派遣までの流れを報じているので載せときます。

(日本経済新聞 2020/01/30)

新型コロナウイルスによる肺炎が広がる中国湖北省にとどまっていた邦人ら206人を乗せた民間チャーター機が29日朝、羽田空港に到着した。感染症の拡大を受けて政府が邦人の大規模な帰国支援に乗り出すのは前例がないという。感染の発生元とされる武漢市では公共交通機関の封鎖が続く。安倍晋三首相らは帰国希望者が急増するとみて異例の対応に踏み切った。

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複数の政府関係者によると、帰国機派遣の検討が水面下で始まったのは先週後半だった。

「在留邦人の状況や意向をしっかり把握してほしい」。首相は23日に武漢市が公共交通機関などを停止したのを受け、日本貿易振興機構(ジェトロ)現地事務所を通じ、日系企業での帰国希望者の情報を集め始めた。

24日には首相官邸で関係閣僚会議を開き、邦人の安全確保に万全を期すよう指示した。茂木敏充外相には邦人帰国策を含め、中国政府と交渉を始めるよう促した。

外務省の事務方では帰国機派遣や、バスなど陸路でいったん武漢市外に移して民間機で帰国させるなど複数案を検討した。ただ24日時点で外務省幹部は「今はまだ退避しなければならない状況ではない」としていた。

週末に入り、世界各国で感染拡大が確認され、政府内でも危機感が強まった。SNS(交流サイト)では武漢市内の病院で中国人患者が列をなす動画も拡散した。世論だけでなく自民党内からも「政府の対応が遅い」といった批判が出てきた。

「帰りたい人が多いから、皆がきちんと帰れるようにしよう」。首相は日曜日だった26日夕、首相公邸に沖田芳樹内閣危機管理監ら関係省庁幹部を集めて協議し、帰国機派遣を決めた。

協議では在留邦人を帰国させれば、かえって日本国内を不安にさせるのではないかといった意見も出たという。首相が最終判断した。協議後、記者団に「希望者全員を帰国させる」と表明した。

その3時間後、茂木氏は中国の王毅(ワン・イー)外相と電話で協議した。茂木氏は帰国機派遣の方針を伝え、協力を求めた。王氏も「日本の考え方を理解する」と応じた。中国側によると、王氏が新型肺炎対応で他国の外相と電話協議するのは茂木氏が初めてだった。

この電話協議で日中当局間の調整が加速した。それでも現地当局との折衝や帰国希望者数の正確な把握など、詰めの作業は簡単ではなかった。

「私も帰国したい」。首相が帰国支援を表明した後、外務省領事局には把握しきれていなかった在留邦人からの連絡が相次いだ。26日夜時点で湖北省に430人の在留を確認していたが、28日朝までに帰国希望者は650人に膨らんだ。

新型肺炎拡大への対応に追われる中国当局との交渉も難航した。外務省は当初、成田―武漢間で定期便を運航する全日本空輸の2機や政府専用機を派遣し、一度に邦人を帰国させる想定で中国側と調整に入った。

米国なども帰国便の派遣を打診し、武漢空港の受け入れ枠や空港側の人員に限りがあった。中国側が最終的に許可したのは1機だけ。米国にも1機しか認めなかった。

自民党内では航空自衛隊が運用する政府専用機の派遣を求める声もあった。政府専用機は搭乗人数が100人強と少ない。1機だけなら200人は乗れるチャーター機の方が良いと判断した。

すべての調整が終わったのは帰国機の出発当日の28日午前だった。「きょう飛ばします」。茂木氏は28日昼に表明し、午後8時半には帰国機が羽田空港を飛び立った。

帰国希望者のうち400人超が現地にとどまっている。首相は帰国機が戻った29日午前、参院予算委員会で「引き続き希望するすべての方の帰国に向け、あらゆる手段を追求する」と強調した。