(朝日新聞 2015/09/07)

 朝日新聞は国立や都道府県立の歴史資料館、平和博物館など116施設にアンケートを実施し、102施設から回答を得た。このうち満州事変(1931年)以降の戦争資料を展示しているとした85施設を調べたところ、旧日本軍などによる戦時下の加害行為の常設展示は約3割の26施設にとどまっていた。戦後70年に伴って増える「戦争遺品」の取り扱いに悩んだり、戦争体験の証言収集を急いだりする現状も浮かんだ。

 戦争資料を展示する施設は全国に多数あるため、専門家の論文や書籍などで取りあげられている施設を中心に103の公的施設と宗教法人を除く13の民間施設に質問用紙を送った。

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▲主な質問と調査対象とした85施設の回答

 慰安婦や強制労働などの加害行為の展示をしていると回答した26施設は、北海道博物館(札幌市)▽東京大空襲・戦災資料センター(東京都江東区)▽沖縄県平和祈念資料館(同県糸満市)――などで、山梨平和ミュージアム(甲府市)は「被害も含めて総合的な展示を心がけている」と説明した。

 一方、26施設のうち3施設はここ数年間で加害展示を縮小していた。大阪国際平和センター(通称・ピースおおさか、大阪市)▽大阪人権博物館(通称・リバティおおさか、大阪市)▽堺市立平和と人権資料館――といずれも大阪。大阪市の2施設は地元議員らから「偏向的な展示だ」などと指摘が相次ぐようになった後に縮小していた。

 加害展示を常設していないのは59施設。埼玉県平和資料館(同県東松山市)は2013年の改装で年表の記載を削除し、加害展示がなくなった。改装前に県議会などから「自虐的」との声が上がっていたが、同館は「分かりやすさを重視した」としている。新潟県立歴史博物館(同県長岡市)は加害展示をしていない理由について、「県の歴史に出てこない」と答えた。

 戦争経験者の遺品の寄贈が増える一方、ほとんど展示できていない現状も。収蔵品数を把握できているとした78施設で計約41万6千点の戦争資料が収蔵されていたが、現在の展示は約2万4千点。57施設が「スペースがない」と回答した。平和祈念展示資料館(東京都新宿区)は約3万3千点のうち展示は約400点、広島平和記念資料館(広島市)は約2万点のうち約800点だった。

 51施設は戦争証言を残す取り組みを進める。活用方法(複数回答)について、27施設が「映像・音声」と回答。NPOが運営している戦争と平和の資料館 ピースあいち(名古屋市)は07年の開館直後から語り部を募る。8月も15日までほぼ連日、戦場体験をテーマに86~101歳の元兵士9人が語った。君塚仁彦・東京学芸大教授(博物館学)は「遺品や証言を管理・展示できる人材の確保と育成も必要」と話している。 (広島敦史、浅倉拓也)

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 ■「被害と加害で実像理解できる」

 終戦から70年。戦争の惨禍と教訓を知る場となる歴史資料館や平和博物館が今、どんな課題と向き合っているのか。それが今回の調査の目的だった。

 先の大戦は空襲や原爆といった「被害」だけではなく、他国への「加害」も生み出した。物事を相対的に見て、考える機会を持てるのがこうした施設だが、調査対象の7割にあたる施設は旧日本軍による加害行為について常設展示していなかった。展示施設の中でも「年表への書き込みのみ」という所から、写真やパネルをふんだんに使う所まで濃淡が見られた。

 日本の近現代史を専門にする原田敬一・佛教大教授も「被害と加害を伝えることで『殺し』『殺される』という戦争の実像を理解できる」と指摘。戦争の加害と被害の両面を社会で共有することの必要性を改めて訴える。

 戦争体験者が亡くなっていくことに伴って急増する「戦争遺品」の取り扱いに悩む一方、職員らが証言集めに奔走する現状も分かった今回の調査。施設を利用する私たちも、歴史を学び、知り、生かす方策を共に考えていくことが求められている。(広島敦史)

 ◆キーワード

 <戦時下の加害行為> 旧日本軍による戦地や植民地での人権抑圧や市民への殺傷などを指す。今回の調査では各地の施設の展示や専門家らの歴史考察を踏まえ、(1)南京大虐殺(南京事件)(2)平頂山事件(3)重慶爆撃(4)上海爆撃(5)三光作戦(6)第731部隊(人体実験)(7)慰安婦(8)創氏改名(9)朝鮮人・中国人の強制連行・強制労働(10)バターン死の行進(11)泰緬鉄道事件(12)捕虜の虐待(13)その他――に分類し、展示の有無を尋ねた。その他として「沖縄戦での集団死の強要」「マニラ戦」「満蒙開拓団の土地収奪」などを挙げた施設もあった。