(朝日新聞 2020/11/02)

 日韓関係悪化のきっかけになった元徴用工問題は、双方の主張に大きな隔たりがあり、解決の道筋は見えない。1965年の日韓請求権協定で解決済みというのが日本側の立場だが、韓国世論には今も謝罪や賠償が必要との考えが強い。なぜなのか。韓国の歴史教科書にそのヒントを探った。

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▲韓国の高校歴史教科書=鈴木拓也撮影

 「日本は強制徴用を謝罪しろ」「判決に従い、賠償しろ」。元徴用工への賠償金支払いを日本製鉄(旧新日鉄住金)に命じた大法院(最高裁)判決から2年を迎えた30日、ソウルの日本大使館前には原告の支援団体のメンバーら約20人が集まり、抗議の声を上げた。支援団体の幹部は「歴史的な判決を日本政府は国際法違反と言うが、誰が強制徴用をしたのか。恥ずかしくないのか」と訴えた。

 日本のNPO法人「言論NPO」と韓国のシンクタンク「東アジア研究院」が、日韓で今秋に実施した世論調査によると、日本では半数近くが韓国の印象を「悪い」と回答。その理由として最も多かったのが、「歴史問題で日本を批判し続けるから」だった。6割近くが、「韓国の反日教育や教科書の内容」に問題があるとした。

 日韓請求権協定は、日本が韓国に無償3億ドル、有償2億ドルの経済協力金を供与し、両国とそれぞれの国民間で「請求権」の問題を「完全かつ最終的に解決されたことを確認する」と明記する。韓国政府も2005年に、日本から得た3億ドルのなかに「強制動員被害の補償問題の解決」が含まれるとの見解を発表。慰安婦問題とは異なり、徴用工問題は外交上解決済みとの立場を示していた。

 だが、2年前の韓国大法院の判決は、日本の植民地支配はそもそも「不法」だったと強調。不法な植民地支配下で受けた「精神的苦痛」に対する「慰謝料」は請求権協定の対象外であると認定した。

 韓国の歴史教科書も、この協定を否定的に書く。

 ミレエン社の高校歴史教科書は、軍事クーデターで実権を握った当時の朴正熙(パクチョンヒ)政権が、「軍事政権の正当性」を確保するために、「経済発展への資金を得るために日本との国交正常化を急いだ」と解説する。協定の内容を「屈辱的」と反発した学生のデモに対し、当時の政権は「戒厳令を敷いて軍隊で弾圧し、協定を締結した」とも記述。そのうえで、日本から「経済開発に必要な資金を得たが、植民地支配に対する謝罪や賠償は受けることができなかった」と断じる。

 東アジア研究院が今秋に韓国で行った世論調査によると、回答者の半数以上が被告企業に判決の履行を求めた。文在寅(ムンジェイン)大統領が「判決の尊重」を繰り返し強調するのは、こうした世論を意識しているからだ。

 韓国の歴史教科書にはこれまでも、日韓関係の火種になってきた慰安婦問題や徴用工問題に関する記述はあったが、今春に発行された8社の高校歴史教科書は、さらに詳しくなった。韓国教育省が、構成や各単元の学習の狙いを定めた「教育課程」を18年に改訂し、日本との歴史問題を生徒が自分で調べて学ぶ「探究学習」のテーマに設定したためだ。

 元徴用工への賠償を命じた大法院判決は2年前の出来事だが、8社のうち5社の教科書が取り上げた。慰安婦問題では、6社に「性奴隷」との表現が載る。日本政府は「『性奴隷』といった表現は事実に反する」との立場だ。

 志学社の教科書に示される「探究学習」の進め方はこうだ。(1)被害の内容を人間の尊厳性と関連づけて整理する(2)両国政府の立場の違いについて発表する(3)解決方法を討論し、日本政府に謝罪と賠償を求める手紙を書く。参考資料として元慰安婦の体験談を紹介し、15年の日韓慰安婦合意は「被害者が拒否した」と説明。日本の公式謝罪と賠償を求めてソウルの日本大使館近くで続く「水曜集会」を取り上げる。

 シマス社の教科書は、「日本政府に謝罪や賠償を求めて手紙を書く」との課題を設定。日本の首相に宛てた手紙の例文まで載せた。そこには、「強制徴用や日本軍慰安婦として連れて行かれた被害者たちに、日本政府は謝罪の一つも、ろくにしていない」「過去の間違いを認め、被害者に謝ってください」などとつづられる。

 教師同士で歴史教育のあり方を研究する「全国歴史教師の集い」の金南秀副会長は「例文はあくまで一例で、その通りに書かなければいけないものではない。探究学習で生徒が韓日の主張の違いを調べ、解決方法を探ることができれば効果的な学習になる」と話す。(ソウル=鈴木拓也)