(日本経済新聞 2021/12/08)

米バイデン政権が2022年2月の北京冬季五輪への「外交ボイコット」を発表した。政府の代表は派遣しないが、米国の選手団は通常通りに送る方針だ。新疆ウイグル自治区などでの中国の人権弾圧に抗議する狙いがある。

・五輪の外交ボイコットとは何か
・過去の事例はどうか
・最も厳しいのは選手団派遣中止

(1)五輪の外交ボイコットとは何か

五輪の外交ボイコットは外交上の用語として明確に定義されてはいない。米政府は選手団以外の外交使節団を派遣しない意味で使っており、報道でも幅広く使用されるようになった。

五輪は首脳級を含めた政府要人による外交の舞台にもなってきた。政府の代表を送らないことで、国として開催への祝意を示さないとの政治的メッセージになる。中国は新疆ウイグル自治区などでの人権問題に米欧などから反発が強まっている。

米国は日本や欧州などの同盟国・友好国に同調を求めないと説明するが、各国政府の判断にも影響しそうだ。中国の人権問題への政府の姿勢も問われる。

中国は今夏の東京五輪にスポーツを担当する閣僚級を派遣した。日本が同等の政府要人を北京に送るかどうかがひとつの目安になる。

(2)過去の事例はどうか

過去の五輪でも外交使節の派遣の是非に焦点があたった例がある。主に21世紀に入ってから中国やロシアで開いた五輪で広く取り沙汰されるようになった。

2008年の北京五輪の際は中国政府のチベット自治区のデモ弾圧に批判がでた。欧州連合(EU)の欧州議会は開会式出席を見送るようEUの各国首脳に呼びかけた。

米国でも米議会や人権団体から当時のブッシュ大統領(第43代)に開会式不参加を求める声があがった。ブッシュ氏は最終的に対中関係を考慮し出席した。ブラウン英首相は閉会式に出席した。

14年のロシア・ソチ冬季五輪のときはロシアの人権政策への反発が米欧で広がった。13年に同性愛宣伝禁止法を制定したロシアへの抗議の意味を込め、米国やドイツ、フランスの首脳が開会式に出なかった。

日本の首相は08年の北京は福田康夫氏、14年のソチは安倍晋三氏がそれぞれ開会式に出席した。

(3)最も厳しいのは選手団派遣中止

五輪へのボイコットで最も厳しい対応は選手団派遣の中止だ。冷戦時代などに実例がある。

1980年のモスクワ五輪は米国が旧ソ連のアフガニスタン侵攻を非難し、同盟国に選手を派遣しないよう要請した。西ドイツや韓国など西側諸国を中心に50ほどの国が参加しなかった。日本も安全保障を頼る米国に足並みをそろえた。

4年後の84年の米ロサンゼルス五輪は旧ソ連や東欧諸国、ベトナムなどが大会に加わらなかった。80年のモスクワ五輪の西側諸国の動きを踏まえて対抗した。

五輪に向けて準備をしてきた選手らが参加できない事態になる。外交的ボイコットはそういった影響を避けつつ、抗議を示す手段として浮上してきた経緯がある。

選手団がとる対処として、開会式の入場行進や国旗・国歌の使用を拒否する方法もある。

英国、フランスなどはモスクワ五輪で選手を派遣したものの、開会式の行進に選手が参加せず、大会で自国の国旗・国歌を使わなかった。英仏の組織委員会は旧ソ連の姿勢に遺憾の意を示しながら参加を望む選手との折り合いをつけた。

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(日本経済新聞 2021/12/08)

【ワシントン=坂口幸裕、北京=羽田野主】バイデン米政権は6日、2022年2月の北京冬季五輪に選手団以外の外交使節団を派遣しない「外交ボイコット」を決めた。新疆ウイグル自治区などでの中国の人権弾圧に抗議する姿勢を明確にする。これに対し中国政府は7日、対抗措置をとることを表明。米中対立が先鋭化するなか、米国に同調する国がどこまで広がるかが焦点になる。

ホワイトハウスのサキ大統領報道官は6日の記者会見で「中国がウイグルで大量虐殺や人道上の罪を犯し、その他の人権侵害を続けていることを考慮した」と説明した。

バイデン政権は効果的なタイミングでの発表を探っていたとみられる。9~10日に米政府が110カ国・地域を招いてオンライン形式で開く「民主主義サミット」は柱のひとつに「人権の尊重の推進」を掲げる。日欧など同盟国や台湾など価値観を共有する参加国・地域の結束を促し、権威主義と位置づける中国やロシアに対抗する狙いがにじむ。

中国は米国の決定に素早く反応した。中国外務省の趙立堅副報道局長は7日の記者会見で対抗措置をとると表明した。具体策は明らかにしていないが、米中の対立がさらに先鋭化すれば「民主主義陣営」と米国がいう「権威主義陣営」の色分けで世界を二分しかねない危うさがある。

ただ、どこまでボイコットが広がるかは見通せない。米国は選手団を通常通り派遣するほか、「我々の決定を各国に伝えたが(判断は)各国に委ねる」(サキ氏)との立場をとり、「踏み絵」を迫るのは避けた。

ロイター通信は7日、米国が表明した北京冬季五輪の外交ボイコットにイタリアは参加しないと報じた。イタリアは26年にミラノなどで冬季五輪を開催する予定で、自国開催の五輪への影響を避ける狙いとみられる。

7日に北京五輪へ閣僚を派遣しない方針を明らかにしたニュージーランド(NZ)も「主に新型コロナウイルスによるもの」(ロバートソン副首相)として人権問題とは関連づけず、米国と距離を置いた。各国とも国内世論や米中とのバランスに苦慮している。

中国も巻き返しに動いている。習近平(シー・ジンピン)指導部は「一部の国の高官の出欠で(五輪の成否が)決まるのではない」(中国外務省)として、米国以外に外交ボイコットが広がらないように、関係国の支持取り付けを急いでいる。

中国外務省によると、習国家主席は3日、ラオスのトンルン国家主席とオンライン協議して「北京冬季五輪の成功裏の開催を断固支持する」との言質をとりつけたと発表した。中国はスイス、ハンガリー、韓国、カンボジアなどにも外交ルートを通じて積極参加を呼びかけている。

スポンサー企業も難しい判断を迫られる。国際オリンピック委員会(IOC)によると、五輪の最高ランクのスポンサーである「パートナー」14社のうち、米国企業はインテル、エアビーアンドビー、コカ・コーラ、ビザ、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の5社。日本企業ではトヨタ自動車とパナソニック、ブリヂストンが含まれる。

米国では消費者から広告や事業内容が差別的だと判断され、不買運動など企業批判につながるケースが多い。新疆ウイグル自治区などを巡る中国の人権弾圧については米市民団体なども批判を強めており、スポンサー企業に対してもボイコットを求める動きが強まる可能性がある。