(朝日新聞 2023/04/18)
 中国が日本を含む外国で、「警察業務拠点」を設けていた可能性があるとして、欧米などの当局が捜査や実態調査に乗り出している。中国側は外国に暮らす自国民へ行政サービスを提供する場所だとしているが、中国の人権侵害を監視するNGOは、国外に潜伏する中国人容疑者を帰国させる拠点だと指摘している。実態はどのようなものか。現地を訪ねた。

 スペインの人権NGO「セーフガード・ディフェンダーズ」は昨年、拠点のリストを公表した。中国当局が「海外110番」の名称で電話番号や住所を公表し、在外中国人に利用を呼びかけていたとされる場所だ。

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 日本の拠点として挙げられている東京・秋葉原周辺の5階建てビルは、4階までがホテルのフロアだ。昨年末に訪ねると、男性従業員が受付で取材に応じた。このホテルで働いて半年ほどになるといい、客の多くは日本人や韓国人だという。

 ここが中国の「警察業務拠点」と指摘されている、と話を振ると男性は、「日本の警察が訪ねてきたことがあり、その時に聞かされて初めて知った」と話した。「何も知らなかったので、警察にもそう答えた」。記者が訪ねた日も、直前に日本の警察官がホテルを訪れていたという。

 客室は計6部屋ある。最上階に置かれているのが、中国福建省・福州市の名を冠した一般社団法人の事務所だ。男性は入ったことがないという。エレベーターはなく、5階に上がる階段の前に「立ち入り禁止」の看板があると説明した。

 ホテルの従業員男性は「事務所に出入りする人に会ったこともない。何をやっている組織なのかわからない」という。

 ホテルの運営会社に電話すると、「ホテル以外のことは何も知りません」と繰り返し、電話は切れた。

■フランス、カナダ、オランダ、英国 それぞれの拠点は

 フランスに複数あるとされる拠点のうち、パリの中国人地区の拠点に電話をかけると、中国人の男性が「コロナ禍で帰国できない中国人と本国の当局をつないで免許証の更新を手伝う仕事をボランティアでやっていた」と説明した。中国当局から連絡を受け、現在は活動を停止しているという。

 カナダの最大都市トロントの近郊に複数あるとされる拠点はいずれも、アジア系住民が多く住む地域にあった。そのうちの一つは、雑貨品などを売っているコンビニエンスストアだった。昨秋にカナダメディアが訪ねた際はコンビニの関係者が「ボランティアが月に1、2回やってきて、お店の片隅を使って中国人の免許証更新などを手伝っている」と説明していた。しかし、記者が昨年12月に訪れると店員は「何も知らない」とだけ答えた。

 オランダ・ロッテルダムや英国のロンドンも訪ねたが、それぞれ中国出身者が暮らす公団住宅の1階、アジア系の女性が働いていた不動産の物件案内所で、「まったく身に覚えがない」「ここに何も問題はありません」と答えた。

 「セーフガード・ディフェンダーズ」は、スウェーデン人や中国人の民主活動家や弁護士らが2009年に前身の団体を北京で設立。中国の民主化や人権保護を目的に当局を監視している。16年に当局の取り締まりを受け、17年からスペインを拠点に活動している。(高島曜介、パリ=宋光祐、トロント=中井大助、ロッテルダム=玉川透)


(朝日新聞 2023/04/18)

 中国が各国に設けているとされる「警察業務拠点」について、国際人権NGOの「セーフガード・ディフェンダーズ」(スペイン)は昨年公表した報告書で、世界で50カ国以上にあると指摘。日本もそのうちの一つだ。

 同NGOが日本での拠点として挙げているのが東京・秋葉原周辺の5階建てビルだ。

 マンションやオフィスビルが立ち並ぶ一角にあり、入り口には「HOTEL」の看板が掲げられている。4階までが宿泊フロアで、最上階に、中国福建省・福州市の名を冠した一般社団法人の事務所が置かれていた。

■「上層部への実績アピールのつもりで…」

 同法人の代表理事(当時)の男性は3月、取材に応じ「警察業務も違法なことも一切やっていない。捏造(ねつぞう)だ」と語った。

 男性によると、この団体は「民間から日中の友好関係を深める」ことを目的に2018年5月に設立。会員は福州出身の中国人約200人で、大半が経営者という。翌19年に活動を本格化させたが、コロナ禍で活動が停滞していたという。

 一方、昨年の春から夏にかけ、中国の運転免許の更新センターに対し、遠隔で免許証更新ができるよう依頼したという。コロナ禍で中国に帰国できない会員のためで、20~30人が免許を更新したが、手続きをしたのはあくまで免許更新センターだったと強調した。NGOに拠点として挙げられたことについては、「更新センターが上層部への実績アピールのつもりで自慢したのではないか」とした。

 松野博一官房長官は昨年12月9日の記者会見で、この拠点について「主権を侵害するような活動が行われているのであれば、断じて認められない」と、外交ルートを通じて中国に申し入れたと明らかにした。(高島曜介)

■事務所の代表理事「何も抵抗できず苦しい」

 日本の「警察業務拠点」として挙げられたビルの事務所の代表理事を務めていた中国人の男性が3月、東京都内で朝日新聞の取材に日本語で応じた。事務所は中国福建省の都市福州の名を冠した一般社団法人で、主な一問一答は次の通り。

――どのような団体か

 日中の友好関係を民間レベルから深めていく活動をするために設立した。福州出身の華僑で、東京やその周辺に住んでいる人たちで、ほとんどは会社の経営者。約200人いる。

 2019年から本格的に活動を始め、交流会を3カ月に1度はやろうと考えていましたが、すぐにコロナ禍になり、活動が停滞してしまった。会員は企業経営者が多いので、日本との経済的な結びつきを強くしようと考えた。日中の政府間関係はこの数年間あまりよくないが、民間交流で日中の友好関係を深める取り組みをしたいだけだ。

 コロナ禍で活動ができなくなったが、日本にマスクがなかった時、中国から仕入れたマスクを警察や幼稚園、老人ホームに配った。一生懸命日本に貢献してきたし、これからもしていきたい。

――国際NGOが「警察業務拠点」と指摘している

 警察業務なんて全くやっていない。捏造(ねつぞう)だ。我々は社団法人で、そんな権限も義務もない。やる必要がない。何も利益を得ていないのに、なぜそのようなことをやるのかと。

 我々は日本の一員として、日本のルールをすべて守っている。ビルに事務所はあるがほとんど使っていないし、常駐している事務員もいない。(日本の)警察にもすべて説明し、調べてもらって何も問題がなかった。やっていたのは、会員さんの運転免許証の更新だけだ。警察とはまったく違う。

――免許証の更新手続きはやっていたということか

 中国にある免許更新センターにお願いし、会員さんをつないだだけ。それも昨年7月18日までの3、4カ月だけ。当時はコロナ禍で中国に帰ると3週間の隔離期間があった。なかなか中国に帰れず、免許の更新期限が迫って困っている会員がたくさんいた。一度期限が切れると、また一から免許を取得しなければならないからだ。

 更新手続きはセンターが行った。免許証の更新に必要な視力検査もセンターとつないでオンラインでやった。更新された免許証も、中国の住所地に送られていた。この間に20~30人が免許の更新をすることができた。それだけのことで、しかも会員の人だけだ。免許の更新以外のことは一切やっていない。

――免許の更新業務について、中国政府などからの依頼はあったか

 向こうの政府から依頼があったわけではない。会員さんが困っているということで、応援してあげるだけだ。むしろ、会員さんからの要望を受けて、センター側にお願いした。私たちも、華僑が何か困っていないかと聞いて助けてあげないと存在意味がない。

 それなのに、欧州のメディアが報道し、「海外警察」と世間からとらえられてしまう。私たちは何も抵抗できず苦しんでいる。

――なぜ、NGOの報告書にこの団体が記載されたと思うか

 他の国のことは何とも言えないが、いろんなところからお願いがあったと思う。それで、免許更新センターが「コロナ禍に華僑の人たちがこんなに困っていて、私たちはこのような取り組みをした」と上層部に実績をアピールするために、あちこちで自慢して話したからだと思う。

――今後はどのような活動をするのか

 民間から日中友好関係を深めて、交流会などを重ねていきたい。また、実際に中国にお連れして、中国をみてもらい、理解を深めながらつながっていけたらと思う。(高島曜介)