(朝日新聞 2023/04/18)
米ニューヨークで中国政府の「警察署」の運営に関わっていたとして、2人の中国系米国人が逮捕された。中国が設けてきたこうした拠点は、日本を含む各国に存在が指摘される一方、中国政府は「警察署ではない」と主張してきた。その活動実態はどのようなものだったのか。米国での捜査の行方に注目が集まっている。
ニューヨークの裁判所に提出された資料から浮かび上がるのは、逮捕された2人が中国政府の公安当局と密接に連絡を取っていた様子だ。
資料によると、逮捕された盧建旺容疑者(61)と陳金平容疑者(59)はともに米国籍を持つ。いずれも「福建省出身者の親睦」などを目的としているニューヨークのNPOの幹部という。

盧容疑者は、長年にわたって中国の公安当局との関係があるとされる。2015年に習近平(シーチンピン)国家主席が渡米した際、中国共産党が「邪教」とする法輪功による抗議活動に対抗するため、ワシントンに人を派遣するなどし、公安当局から表彰されたという。
盧容疑者は18年ごろからは、中国政府が米国内で捜している人たちの居場所を特定しようとする活動に協力したという。対象者となった一人は連邦捜査局(FBI)の聴取に、「中国に戻らなければ、家族が被害にあう」などと嫌がらせを受けたと話している。
22年1月には、福建省福州市の公安当局が世界各国に「警察署」を開設する目的で式典を開催。盧容疑者も出席し、公安当局幹部と一緒に記念撮影もした。同年2月、米国に帰国し、直後にニューヨークで「警察署」を開いたという。同年4月には、在ニューヨーク中国領事館の関係者も「警察署」を訪れた。
22年3月には、米当局が特に注視する動きがあった。福建省で盧容疑者と一緒に写真に写っていた公安当局者が、カリフォルニアに住んでいる人物の居場所を確認するよう依頼。盧容疑者は知人に協力を依頼した。公安当局が居場所を捜していたのは中国系の民主活動家で、「嫌がらせを受けてきた」とFBIに供述したという。
FBIは22年10月3日、警察署とみなすニューヨークの拠点を家宅捜索。盧容疑者らの聴取や携帯電話の通信記録の調査も始めた。
盧容疑者は聴取に対し、警察拠点の設立の責任者であるとしつつ、日常的な運営は陳容疑者らに委ねていると説明。公安当局幹部からのメッセージを携帯電話から消去したことを認め、なぜかを問われると「理由は分からない」などと答えたという。
22年12月、FBIは改めて両容疑者を聴取し、供述の矛盾や証拠を示した。両容疑者は、FBIによる捜査開始を知って携帯電話のメッセージを削除したことなどを認めたという。中には、世界各国の関係者とのやり取りが含まれていたチャットもあったという。
米司法省の担当者は17日の会見で、「FBIがアクセスできる前に消去された情報がたくさんある」と指摘し、「米国内での活動の全容を判明させるためには、まだ作業が必要だ」とした。中国政府からの嫌がらせなどを受けた人に対しては「申し出て欲しい」と呼びかけ、引き続き情報収集を進める方針だ。(ニューヨーク=中井大助)
(朝日新聞 2023/04/18)
米司法当局は17日、届け出をせずに中国当局に代わって警察業務を担う拠点を開き、米国内の民主活動家らを監視するなどした疑いがあるとして、中国系米国人の男2人を逮捕した。米当局は「国家主権の侵害だ」と批判しているが、中国が反発するのは必至で、米中対立の新たな火種となりそうだ。
米司法省によると、逮捕されたのはニューヨーク在住の盧建旺(61)と陳金平(59)の両容疑者。2人は2022年2月ごろ、ニューヨークのマンハッタンで中国の福建省福州市の「警察署」を開いたという。
連邦捜査局(FBI)は同年10月にこの拠点を家宅捜索し事情聴取も進めた。その過程で、両容疑者が中国公安当局幹部からの通信を削除し米司法当局の捜査を妨害した疑いも生じ、取り調べにも認めたという。
盧容疑者は公安当局幹部から要請を受け、カリフォルニア州に住む中国系の民主活動家の居場所を特定するなどした疑いもある。
中国が国外に設けたこうした拠点については、国際人権NGOの「セーフガード・ディフェンダーズ」(スペイン)が22年9月に存在を指摘し、注目が集まった。欧州やカナダ、日本にも「警察業務拠点」があるとしており、同NGOは、自国民を中国へ帰国させる拠点だと指摘している。米当局は実態は警察署だとみており、こうした拠点の関係者が逮捕されたのは初めてという。FBIの担当者は17日の会見で「違法な警察署の目的は、米国にいて、中国政府と異なる見解を持つ個人を黙らせ、困らせ、脅迫することだったとみている」と主張した。米司法当局はこの日、米国内に住む中国人らにオンラインで嫌がらせをしたなどとして、公安当局の職員ら44人の訴追も発表した。ただ、いずれも身柄は拘束していない。
中国外務省の汪文斌副報道局長は、18日の定例会見で「米国は海外サービスステーションと中国の外交当局者を悪意をもって関連づけ、いわれなき非難をしているが、完全に政治操作だ。事実無根であり、いわゆる海外警察署は存在しない」と反論した。中国外務省はこれまで、こうした拠点について、外国で暮らす自国民に運転免許証更新などの行政サービスを提供する場所と説明している。
■識者「ウィーン条約上、問題となる可能性」
東京都立大の新倉圭一郎准教授(国際法)は「警察活動を外国で同意を得ずに行うのは、国際法上の主権侵害に当たる」と指摘。運転免許証更新業務についても、「(相手国の)同意が必要な領事任務と考えられ、領事関係に関するウィーン条約上、問題となる可能性がある」としている。
朝日新聞はNGOの報告書にあるリストに基づき、オランダやカナダ、英国、東京などの拠点を訪ねたが、担当者らは「何も知らない」などと回答した。(中井大助=ニューヨーク、高島曜介)

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