(朝日新聞 2023/09/29)
北朝鮮による拉致問題の解決に向け、日本政府関係者が今年3月と5月の2回、東南アジアで北朝鮮の朝鮮労働党関係者と秘密接触していた、と複数の日朝関係筋が証言した。岸田文雄首相は北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記との首脳会談に向けた環境整備を進められるとみて、今秋にも平壌に政府高官を派遣することを一時検討していた。
だが、日本政府が拉致被害者全員の早期帰国を求めるのに対し、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」という立場を堅持。さらに、ウクライナと戦争を続けるロシアが北朝鮮に接近するなど国際情勢の変化もあり、首脳会談の実現に向けた交渉は現在停滞している。
複数の日朝関係筋によると、日朝の秘密接触は、今年3月と5月、いずれも東南アジアの同じ主要都市で行われた。少人数による非公式会合で、日朝両国の懸案について幅広く意見が交わされた。北朝鮮側は日本側との対話に意欲的な姿勢を示したという。北朝鮮に日本人がいるかどうかについてもやりとりがあり、北朝鮮側は否定しなかったものの、「拉致被害者」という言葉は使われなかったという。
複数の首相官邸関係者も朝日新聞の取材に対し、今春に日朝間の秘密接触があったことを認めた。日本政府側は接触した朝鮮労働党関係者について、北朝鮮の内情にも詳しいため、正恩氏に近い党幹部につながる人物と判断したという。一連の日朝間のやりとりは、首相や松野博一官房長官に報告された。首相は自身の訪朝による首脳会談の実現に向け、今秋にも政府高官を平壌に派遣することを検討していた。
◇隔たり大きく… 日本政府関係者の見方は
首相は5月27日、正恩氏との首脳会談の早期実現に向け、「私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と表明した。今月19日の米ニューヨークの国連本部での一般討論演説でも同様の発言を行っている。
しかし、拉致問題の解決を最優先に掲げる日本と、国交正常化後の経済協力に期待する北朝鮮との立場の隔たりは大きい。首相は引き続き政府高官の派遣のタイミングを探っているが、岸田政権内では「すぐに事態が動く状況ではない」(首相官邸関係者)という見方が強まっている。
拉致問題をめぐっては、2002年9月に小泉純一郎首相が訪朝し、金正日(キムジョンイル)総書記と会談。正日氏が日本人拉致を認めて謝罪し、同年10月に被害者5人が帰国した。だが、北朝鮮はその後、拉致問題は「解決済み」として、公式的には5人以外の被害者については「死亡」や「入国していない」との主張を繰り返してきた。日本政府は被害者として帰国した5人を含めた17人を認定。そのほかにも被害者がいるとみているが、全容は把握できていない。(鈴木拓也)

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