(朝日新聞 2024/07/30)
 人類が歴史に刻んだ光と影の両面を次世代に引き継いでいく貴重な財産として、大切に守っていきたい。

 「佐渡島の金山」がユネスコの世界文化遺産に登録されることが決まった。

 世界の他の地域の鉱山で機械化が進んでいた時代に、高度な手工業による採鉱と製錬技術を続けていた点が評価された。

 登録まで多くの曲折があった。国の文化審議会が推薦候補に選んだものの、韓国政府が「戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられた被害現場だ」と反発。日本政府はいったん推薦の見送りを検討したが、保守派の声を受けて2022年に推薦を決めた。

 登録審査に先立ちユネスコの諮問機関が、説明や展示にあたり江戸時代だけでなく明治以降を含む「全体の歴史」への配慮を求めた。明示はされなかったが、韓国側の主張もくみとったとみられる。

 特筆すべきは、歴史の評価をめぐって日韓政府が対立する状況で、双方が歩み寄り、話し合いで着地点を見いだしたことだ。

 登録決定の翌28日から現地の郷土博物館では、朝鮮半島出身者が危険な坑内作業に従事していた割合が、内地の出身者よりも高かった状況などが、展示スペースを設けて紹介されている。

 強制労働か否かの見解が日韓で食い違う中、「強制」の表現は避けつつ、過酷な労働環境にあったことを現地で展示することで両政府が折り合った妥協の産物とはいえ、直視すべき事実であることに変わりはない。

 尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の就任後、大きく改善した日韓関係も合意を後押しした。だが、当初から日本側が朝鮮半島出身者の苦難の歴史に真摯(しんし)に向き合う姿勢で臨んでいれば、ここまで事態は複雑にならなかったのではないか。

 外から言われるまでもなく、自らが主体的に歴史と向き合うことが、本来あるべき姿だろう。

 佐渡や新潟では、市民や有志の団体が、戦時中に動員された朝鮮人労働者の証言を掘り起こしたり、江戸時代に江戸や大坂などから送り込まれて過酷な労働に従事させられた「無宿人」と呼ばれる若者らを追悼したりしてきた。その地道な努力を多としたい。

 歴史は国の独占物でも、輝かしさに彩られたものばかりでもない。遺産登録にあたって、市民がより幅広く関与できる仕組みが検討されてもいいだろう。影の部分も含め、全体を受け止めてこそ、遺産としての価値を増すことも、忘れてはなるまい。