(読売新聞 2024/12/24)
 JR九州が23日、日韓を結ぶ高速船事業からの撤退を正式に表明した。完全子会社のJR九州高速船が旅客船「クイーンビートル」の浸水を隠して3か月以上運航を続けた問題が発覚し、運休してから約4か月。運航再開を目指してきたが、浸水を繰り返した船の補強が困難と判断し、再開断念に追い込まれた。国鉄民営化後の1991年から30年以上続いた国際航路は、不祥事をきっかけにその歴史に幕を閉じることになった。

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 「運航再開を期待していたみなさまにおわびしたい。船体の亀裂発生のリスクを完全に 払拭ふっしょく することができず、確実な安全を担保できない」。JR九州の古宮洋二社長は23日の記者会見で謝罪し、撤退の理由について安全性への懸念を強調した。

 問題は国土交通省の8月の抜き打ち監査で発覚。JR九州高速船が2月中旬からクイーンビートルの亀裂による浸水を隠して運航し、5月末になって初めて浸水が発生したかのように国に報告した。船は8月から運休し、同社の当時の社長ら幹部3人が解雇され、古宮社長は報酬月額30%(2か月)を自主返納とした。

 古宮社長によると、亀裂を繰り返した船首の補強のため、新たな溶接方法で強度向上を図ろうとしたが、専門家から亀裂発生の可能性は残るとの指摘を受けたという。古宮社長は「安全を軽視して、運航できない」と述べた。また、格安航空会社(LCC)との競争や、浸水隠しなどの問題が起きたこと自体も踏まえ、撤退を決断したと説明。「(JR九州の事業)多角化の象徴でできれば続けたかった」などと無念さもにじませ、責任の取り方を問われると、「報酬カットとしているので」といら立った様子も見せた。

 福岡海上保安部は10月、船舶安全法違反(臨時検査不受検航行)と海上運送法違反(安全管理規程違反)の両容疑で、同社と船を捜索するなど捜査を続けている。このため、JR九州高速船は捜査への対応などが終わり次第、解散するという。

 年に数回利用していた福岡市東区の会社員(48)は「荷物を持ったまま出港間際の時間に行っても利用できて便利だったが、(安全に運航できないなら)撤退は仕方ない」と話した。韓国・ 蔚山(ウルサン)大名誉教授で、日本語を指導する韓国人のキム・ドンワンさん(70)は高速船をよく利用して福岡を訪れていた。「私のような利用者には切実な問題。裏切られた気持ちだ」と語った。

 船の運航に詳しい神戸大の若林伸和教授は、「運航の安全・安定性を軽視して採算・収益を重視した結果、浸水の 隠蔽(いんぺい)を招き、事業の撤退に追い込まれたといえる。公共交通機関は、安全が最優先であることは言うまでもなく、少しでもないがしろにすれば、事業は続かないことを改めて肝に銘じるべきだ」と話した。

◇ピーク時は35万人利用した「黄金航路」

 JR九州グループの日韓航路は国鉄民営化約4年後の1991年に開設された。船体が水面から浮いて高速で進む水中翼船「ジェットフォイル」を導入し、カブトムシに似ていたことから「ビートル」と名付けられた船は博多と 釜山(プサン)を約3時間で結んだ。

 初期は利用者が低迷したが、2002年のサッカーワールドカップ日韓大会開催や03年の韓国ドラマ放映による韓流ブーム到来などで利用者は増加。ピークの04年度には35万人に達し、「黄金航路」とも呼ばれた。05年に分社化されたJR九州高速船の初代社長・丸山康晴さん(76)は「近くにあるが心理的に遠かった韓国を『近くて近い国』に変えた」と言い切る。

 10年代に入り、格安航空会社(LCC)が台頭し、14年度には約17万人とピーク時から半減するなど減少傾向が続いた。こうした中、約57億円をかけて登場したのが「クイーンビートル」だった。定員は、ビートルから倍増となる502人で、運航中にシートベルトを着けずに船旅を楽しめるとうたった。造船中に新型コロナウイルス禍が直撃し、運休が続いたが、22年11月に日韓航路に就航。コロナが収束し、利用者の増加が期待されていた。

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 JR九州初代社長で日韓航路開設に尽力した石井幸孝さん(92)は、「日韓交流に貢献してきた航路。今後も一定の利用が見込めたのに、こうした問題で廃止になるのは、あまりに無念だ」と語った。


(朝日新聞 2024/12/23)

 JR九州高速船が日韓高速船「クイーンビートル」の浸水を隠して運航を続けた問題で、親会社のJR九州は23日、運航再開を断念し、30年以上続いた日韓航路から撤退すると発表した。浸水を繰り返した船首部分の抜本的補修が難しく、「確実な安全が担保できない」との結論に至った。

 JR九州の古宮洋二社長は記者会見で「ハード対策を施しても、船体へのクラック(亀裂)発生のリスクを完全には払拭(ふっしょく)できない」と説明した。運航再開をめざしていたが、不正発覚から4カ月で断念に追い込まれた。

 JR九州高速船は会社自体を清算し、従業員70人は原則としてグループ内で処遇する。清算の時期は、福岡海上保安部が進めている捜査への対応などを終えた後になる。船体はリース会社が保有し、売却するか廃船にするかは未定だという。

 クイーンビートルはオーストラリアのオースタル社が建造。定員を502人とする大型化と高速運航を両立させるため、船体を軽量化できるアルミ合金製の三胴船(トリマラン)が採用された。

■アルミ溶接難しく、確実な対策見つからず

 運航再開を目指し、JR九州は、右舷側の溶接部分に亀裂が入る問題の対策を専門家と検討。オースタル社も溶接方法の変更を提案した。

 しかし、もともとアルミは溶接が難しく、細くとがった船首の構造も壁となり、溶接方法を変えても完全には浸水は防げないと判断した。

 発端は浸水の隠蔽(いんぺい)だったが、約57億円で特注した船が4年で使えなくなる事態となった。

 アルミ合金製の三胴船では、オースタル社が米海軍に納入した沿海域戦闘艦でも、船体の亀裂を避けるため、運航速度などが制限される問題が起きている。

■発注当時の会社判断「問題なかった」

 ただ、クイーンビートルは玄界灘を想定した発注通りの仕様で造られ、1年の保証期間も過ぎている。このため、オースタル社に浸水の責任を問うことも難しい。発注責任についても古宮氏は「当時の判断としては問題なかったと思っている」と述べた。

 日韓航路には、水中翼船のジェットフォイル「ビートル」が1991年に就航。クイーンビートルは、2022年11月から引き継いだ。福岡市の博多港と韓国・釜山港を3時間40分で結んだ。20年9月に完成しながら、コロナ禍で就航が2年遅れる不運もあった。

 JR九州高速船は今年2月中旬~5月末に船首部分の浸水を隠して3カ月以上運航した。8月に、国土交通省の監査で隠蔽が発覚し、運航停止が続いていた。

 日本と釜山港を結ぶ旅客船には、クイーンビートル以外にも博多港と往復するフェリー「ニューかめりあ」と山口・下関港と往復する「関釜フェリー」がある。一方で、近年は格安航空会社(LCC)の航空便も増え、旅客の獲得競争が激しくなっていた。

 コロナ禍前、JR九州高速船はビートルを3隻体制で運航していた。クイーンビートルの建造を決めた時点では、ビートルと複数で運航する計画だった。しかし、コロナ禍での経営悪化でビートルは全3隻の売却方針を決定。現在も1隻を保有するが、保守や運航の人員は残っておらず、ビートルでの暫定的な運航再開も選択肢にならなかった。

 JR九州は91年に本社の事業として日韓を結ぶ運航を始め、05年からは100%子会社のJR九州高速船が運航を続けてきた。

 JR九州高速船は今回の浸水隠しで、すでに国交省の処分を受け、前例のない安全統括管理者と運航管理者の解任命令も受けた。JR九州が設けた第三者委員会は、JR九州高速船の幹部の責任の重さや、JR九州によるガバナンスの不足を指摘。JR九州高速船の当時の社長ら幹部3人は取締役を解任のうえ、懲戒解雇となった。(江口悟、波多野大介)