(朝日新聞 2026/02/13)
 海難救助や沿岸警備に使われる海上保安庁の巡視船艇386隻のうち、4割近くが更新の目安となる20~25年の耐用年数を超えていることが海保への取材でわかった。老朽化で配管に穴が開いたり、故障で一時航行不能となったりした事例もあり、改修工事で「延命」する船もある。予算が優先される沖縄県・尖閣周辺での警備や、国内の人手不足などが影響しているという。

 海保の巡視船艇は昨年3月末時点で、広範囲の海域で活動する中・大型の巡視船が147隻、港内や沿岸部をカバーする小型の巡視艇が239隻ある。

 船には腐食や金属疲労などを踏まえた耐用年数があり、巡視船は原則25年、巡視艇が20~25年。海保によると、巡視船の34隻(全体の23%)と、巡視艇の107隻(同45%)の計141隻(同37%)が耐用年数を超過する。近年は同様の傾向が続いているという。

 耐用年数を超えれば、故障が増え、修理も時間がかかる。

■「穴が開くことはよくある」

 政府関係者によると、2021年1月には、ヘリコプター搭載型巡視船「うるま」が任務中に故障し、一時航行不能となる事態となった。海保によると、一部の船では、油圧管に穴が開き船に積む搭載艇を下ろすクレーンが使えなくなったり、違法船などに警告する電光掲示板が一部映らなくなったりしているという。

 ある海上保安官は「古い船なら配管に穴が開くことはよくある」と話す。係留用のロープを巻く機械や、搭載艇を上げ下ろしする機械の装置は油圧で動き、小さな穴から油が漏れる度に船員で修理しているという。

 海保幹部は「故障リスクのある船で厳しい任務に出ることはベストとは言えず、あらゆる現場で万全のパフォーマンスを出せるかといえば懸念は残る」と話す。

■背景に中国海警船の存在も

 なぜ、船の更新が進まないのか。

 背景の一つは、海保の活動範囲の拡大だ。1977年に領海が3カイリから12カイリに、漁業管轄権の及ぶ範囲が200カイリに拡大した。1980年代にかけて集中的に巡視船を造り、2000年代に100隻超が一挙に更新時期を迎え、予算が追いつかない状況が続いた。

 さらに2012年に日本が沖縄・尖閣諸島を国有化して以降、中国海警局所属の公船「海警」が周辺海域で活動を活発化させた。現場において中国側を上回る態勢を維持するため、尖閣警備にあたる最新鋭の巡視船の新造などに予算が優先的に使われ、他の船の更新は後回しになっている。

 海保の予算は、2022年に取りまとめられた「海上保安能力強化に関する方針」に基づき、毎年度200億円ほど増えている。ただ、補正も含めた今年度予算の3584億円のうち、船の代替整備に関する費用は約168億円で、巡視船1隻の代替に必要な約200億円に届かない。

 政府関係者によると、これから審議が始まる政府の2026年度当初予算案の編成では当初、引退が決まっていたヘリコプター搭載型巡視船「うるま」の代替整備費として13億9千万円が盛り込まれていたが、最終的には外れた。急きょ、別の管轄から同型の船を回す形でカバーするという。

■造船所の人手不足も

 最も高齢の「現役船」は、関東圏を管轄する第3管区海上保安本部(横浜市)の巡視船「さがみ」(3100トン)。改修工事を経て昨年3月末時点で船齢45歳となり2024年度予算で代わりの船の整備費用がついた。

 九州北部と山口県西部を管轄する第7管区海上保安本部(北九州市)の巡視船「やしま」(5300トン)は、昨年3月末時点で船齢36歳。ヘリコプター2機を搭載できる大型巡視船で、1988年に建造された。改修工事は行われず、耐用年数は11年を超え、2023年度の補正予算で代わりの船の整備費用がついた。

 ただ、代替のめどが立つ例は少なく、耐用年数を超えた全141隻のうち、予算が付いたのは1割未満の12隻にとどまる。

 国内の造船所の人手不足も要因となっている。建造や修理は民間船と競合し、海保側の希望通りの日程で船を調達することはできなくなっているという。

 耐用年数を超えた巡視船艇の運用が常態化する中、海保は古い船が同じ地域に集中して配置されないように運用で工夫する。担当者は「海保の警備・救難体制に影響はない」としたうえで、「新造した巡視船の隻数や配備エリアなども踏まえ、総合的に代替整備が必要な隻数を検討していく」としている。(増山祐史)