台湾で「日本の護衛艦導入を視野」の報道が…実現すれば中国を刺激するのは必至 武器輸出の解禁早々どうなる(東京新聞 2026/05/03)
高市早苗政権は、武器輸出の全面解禁を決めた。そんな中で、注目されているのが台湾の一部報道。現地当局が既に日本の護衛艦の導入を視野に入れているとし、日本側の市民団体などが危惧を強めている。この報道をどう受け止めるべきか。日本政府はどう対応すべきか。(佐藤裕介)
◆「中国への軍事的挑発以外の何ものでもない」
「政権の裁量次第で、どこの国にでも武器を輸出できるようになってしまった」「米国に武器を輸出していいというのはどういうことか。(イランでの)虐殺を助長するだけだ」
4月22日に国会内で開かれた市民集会。参加した市民約30人を前にマイクを握ったのが、市民団体「武器取引反対ネットワーク」の杉原浩司代表。前日の21日の閣議と国家安全保障会議(NSC)で「防衛装備移転三原則」の運用指針が改定されたことを踏まえ、冒頭の言葉を口にした。
その杉原氏が集会で言及したのは、海外の報道も。台湾メディアの「上報」は4月15日、日本の武器輸出解禁を見据え、台湾当局が日本の護衛艦導入を視野に入れている可能性を伝えていた。
杉原氏は、日本の護衛艦が台湾に導入されることになれば「中国への軍事的挑発以外の何ものでもない」と懸念を強めた。
「『紛争を助長しない』というのが武器輸出三原則の理念だった。今回の解禁で、各地の紛争を助長するような武器輸出に踏み込みかねないところまで一気に来てしまった」
◆台湾報道によれば、次世代艦艇として「もがみ型が最適」
上報は、日本国内でも複数の報道機関やシンクタンクが報道内容を引用することもある台湾のネットメディアだ。「こちら特報部」は東京大の阿古智子教授(現代中国研究)の力も借りて内容を確認したところ、台湾当局が海上自衛隊の最新鋭護衛艦FFM(もがみ型)を次世代の艦艇として「最も適していると考えて」いるとし、日本の護衛艦導入の可能性に触れていると分かった。
この報道は翻訳され、X(旧ツイッター)上でも拡散された。台湾の防衛力強化に資すると歓迎する声が多くあった一方、「日中関係は今以上に厳しいものになる」や「日本側はどこまで本気なんだろう」という投稿も目に付いた。
◆防衛省は輸出否定、自民議員も否定的
実際はどうなのか。「こちら特報部」が台湾に護衛艦を輸出する可能性があるか、防衛省に問うと「台湾との間で(輸出に必要な)政府間の国際約束である防衛装備品・技術移転協定を締結することは想定されない」などと否定した。
高市首相を支えるある自民党議員は取材に対し、中国との関係を踏まえれば「実現の可能性は極めて低い」と否定的。だが、「一切の支援をしないということでいいのか。あらゆる可能性を残しておくことは重要」として含みも残した。
政府は今回、海外に輸出可能な武器・装備品を非殺傷の「5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)」に限定していた従来の制限を撤廃。個別の輸出の可否はNSCで判断し、輸出先については日本と防衛装備品・技術移転協定を締結する米英豪印など17カ国に限定するが、新たな協定を結べば対象国を拡大することもできる。
「歯止め」として野党が重視していた国会の関与についても、政府・与党側は必要ないとして、決定後に国会議員に文書で伝える「事後通知」にとどめ、国会の関与を形骸化させた。
◆安保政策に詳しいジャーナリストも「可能性は低い」
高市早苗首相は4月21日、自身のX(旧ツイッター)で、武器輸出解禁後も「戦後80年以上にわたる平和国家としてのこれまでの歩みと基本理念とを堅持することに全く変わりはない」と投稿した。
だが、昨年11月の高市首相による台湾有事発言などもあり、日中関係は悪化したまま。そんな中で武器輸出の全面解禁が決まった。
安保政策に詳しいジャーナリストの布施祐仁氏は、仮に今回の報道にあったような台湾の護衛艦導入に向けた動きが本格化すれば「日中間の軍事的な緊張と偶発的な衝突リスクが一気に高まる」と指摘。ただ、あまりにも危険が高いために「護衛艦の輸出やライセンス供与が実現する可能性は低い」とみる。
◆高市政権は対中強硬姿勢を維持、関係改善の糸口見えず
一方で今回の武器輸出の解禁も含め「高市政権が緊張の高まりをいとわないような対中強硬姿勢を維持していることも事実だ」と分析する。
日本政府は4月17日、海上自衛隊の護衛艦「いかづち」を派遣して台湾海峡を通過させ、台湾への圧力を強める中国を軍事的にけん制している。主に2025年の外交、国際情勢をまとめた2026年版外交青書のなかでは、中国について2025年版の「最も重要な2国間関係」から「重要な隣国」に表現を後退させた。
かたや中国も敵基地攻撃能力の保有や改憲などの動きを強める高市政権を念頭に「新型軍国主義」という言葉を使って日本批判を展開する。中国海軍は沖縄周辺での活動を活発化させ、経済の分野でもレアアース(希土類)など重要鉱物の輸出規制を行っている。
前出の東大教授、阿古氏は、日本の武器輸出解禁への中国の見方について「さまざまな軍事の用途に転用し得る日本の高い技術が輸出され、日本の友好国の間で使用されることになるのは中国にとって大きな脅威になると考えているのではないか」と述べる。
「中国にとって台湾統一は『悲願』。中国国内では『日本に対して絶対に譲れない』という状況になっており、政府レベルでの関係改善は当面、難しい」
◆これ以上の日中関係悪化「メリットない」
一橋大の田中宏名誉教授(日本アジア関係史)は「(中国にとって)台湾は日清戦争で日本に奪われた領土であり、『奪われたものを取り返す』という歴史的な観点からも台湾を重視している」と解説する。
台湾有事発言を行った高市首相については「日本が中国に対して行った過去の侵略の歴史に向き合っていないのではないか」と疑問の目を向ける。
高市政権が対中強硬路線を維持する理由はなぜか。
法政大の白鳥浩教授(現代政治分析)は「物価高などで経済運営がうまくいっていない現状から国民の目を外交に転じさせるため、ナショナリズムを鼓舞し、対中関係を利用している側面もあるのでは」と語った上で「中国をたたき、台湾を擁護することで岩盤保守層の歓心を得ようとしているように映る」と話す。
白鳥氏は「この層から人気があったかつての安倍晋三元首相のような『強いリーダー』になろうとしているのではないか」と読み解いた上でこう呼び掛ける。
「一人一人の国民が憲法がうたう平和主義とは何なのか、もう一度冷静に考えるべき時。これ以上、中国との関係を悪化させても日本にメリットはない。冷静な対応が必要だ」
◆デスクメモ
警戒すべき国はどこなのか、誰なのかと思う。国際法違反の暴挙。人命をないがしろに。その暴挙を前に口を閉ざす。かたや、誰かをあやめる道具を売り渡そうとする。大きくモラルが揺るがされる今の状況。空虚な勇ましさより、穏やかな日々がほしいと思うのは私だけだろうか。(榊)

周辺国をこれでもかと刺激しているのに
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