(朝日新聞 2026/08/08)
 外国籍職員採用の是非を尋ねた三重県による県民アンケートの設問を巡り、諮問機関から「差別に当たる」と指摘された県は7日、「差別には当たらない」とする見解を表明した。一見勝之知事は、回答結果を公表する方針を示した。

 諮問機関は、差別解消条例に基づいて設置された大学教授や弁護士らでつくる「県差別解消調整委員会」。調整委は今月3日付で、外国籍の人の採用を継続すべきか尋ねた設問を「差別に当たる」として、一見知事に対し、回答の非公表を求める答申を出した。

 設問は、海外には国内外の自国民に情報活動への協力を義務づける国もあるとし、「公務員の守秘義務に抵触する事案が発生することが懸念されています」などとした上で、採用を続けるべきか尋ねる内容だった。

 外国籍の住民から今年4月、外国籍の住民は「犯罪予備軍」であるかのような扱いを受けたなどとして、結果の非公表などを求める申し立てがあり、調整委が審議していた。

 調整委は、設問が、外国籍職員が守秘義務に抵触する事案を発生させる懸念があるかのように、誘導するような文面だ、と指摘。設問などについて、「限定的な懸念を過度に一般化」しており、法の下の平等を定めた憲法14条に抵触する恐れがあるとともに、差別解消条例が掲げる「国籍を理由とした『不当な区別』だ」とした。

 また、調整委は、答申への「付言」として、地方自治法で市町村区域内に住む人はこれを包括する「県の住民とする」としており、今後の県民アンケートについて、外国籍住民も含めて対象とするよう強く要望した。

 差別解消条例では、答申を受けた知事は、「差別」をした当事者に助言を含む行政指導をする、と定めている。

 一見知事は7日夕、答申に反して、設問は「不当な差別とは言えない」とし、回答結果も「県民の『知る権利』も考慮して公表するものとする」とした「助言」を公表した。

■助言「国籍要件は35都道府県で実施」

 助言では、設問について「外国人一般に情報漏洩(ろうえい)リスクがあると述べたものではない」「限定的な懸念を過度に一般化しているとは言えない」として、不当な差別ではないと評価した。

 また、1953年の内閣法制局見解に基づき、公権力の行使や公の意思形成への参画に携わる公務員となるには日本国籍が必要という「当然の法理」をあげ、公務員採用で外国籍者を区別することは制度上予定されている、と指摘。国籍要件を設けた採用は、国や35都道府県で実施しているとして、その是非を問うこととあわせ、憲法14条に反しないとした。

 一方、設問の文面や回答結果の公表にあたっては、答申の指摘もふまえ、公表の際には「設問の意図や公務員採用にかかる法制度の丁寧な説明を加える」とした。

 一見知事はこの日の会見で、「今までの国の考え方、法制度に基づいて論理的に考えて助言したものなので、決して条例の効果を損なうものとは考えていない」と主張した。

 2023年に設置された調整委が、申し立てを受けて審議したのは、今回を除き1件。公立学校教員が土地購入の契約後に、土地が被差別部落にあることがわかったとして契約解除を業者に要求する事案があり、差別解消条例が定める「不当な差別」に当たると答申。一見知事は教員に反省を促す「説示」をしていた。(小林裕子、北沢卓也)

■「知事が当事者 条例の課題露呈」調整委員長

 県の発表を受け、三重県差別解消調整委員会の田中亜紀子委員長(三重大学人文学部教授)は7日、コメントを出した。次の通り。

 第三者委員会として公正・中立に議論をし、結果をまとめ答申を出した。助言が答申の内容と異なるものになったことは、不本意だが、条例の運用においてそのようなことが起こり得ることは理解している。

 差別解消条例は先進的な条例だが、今回の事案のように県知事が当事者になる場合、このような結果になることは、運用面の課題が露呈したと考えており、条例の目的を貫徹するためには同様な事柄が発生しないように改正も必要だと考える。

 委員会では、当初より申立人(外国籍の県民)の主張はもっともであると考えていたが、このような結果になってしまい、申立人にすまなく思っている。既に傷ついている申立人がさらに傷つくこと、そして、この影響が外国籍住民および留学生などに対する排外行為を助長することを懸念している。