(東京新聞 2026/09/01)
 1923年の関東大震災直後、「朝鮮人が暴動を起こした」などの流言が広がり、多くの朝鮮人が日本人に殺害された。9月1日で震災から103年を迎えるが、犠牲者の総数も明らかになっていない。日本と韓国の国会議員は8月31日、国会内で会談し「実態解明に向けて緊密に協力していく」などとする共同声明を公表した。(森本智之、安藤恭子)

◆「未来にこうした痛ましい事件を起こさないという意味がある」

 韓国では昨年12月、虐殺の真相究明や犠牲者の名誉回復などを目的とする特別法が成立した。今年12月に施行され、首相直属の委員会が発足する。この日は韓国から国会議員6人が来日し、虐殺の検証に有志の会で取り組む立憲民主党や中道改革連合、社民党などの国会議員らと懇談した。

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 声明では犠牲者数は確定せず犠牲者名簿も整備されていないとして、「その実態にはなお解明すべき課題が残されている。犠牲者一人ひとりの実像を明らかにし成果を後世に正しく伝えていく重要性を確認した」などとした。

 発出後の記者会見で、韓国側の尹厚徳(ユンフドク)議員は「事実ではないうわさによって103年前、多くの人が犠牲になった。事件の真相を究明し名誉を回復することは未来にこうした痛ましい事件を起こさないという意味がある」と訴えた。

◆ネットでは事件自体を否定するような書き込みも

 内閣府の中央防災会議は2009年の関東大震災の報告書で「官憲、被災者や周辺住民による殺傷行為が多数発生した」「朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人も少なからず被害にあった」などと記した。旧司法省の資料にも233人が殺害されたとの事件の記録があり、同会議は犠牲者数を震災による死者約10万5000人の「1〜数%」と推計している。各地には民間団体などが掘り起こした証言記録が多数存在する。

 しかし、日本政府は「政府内において事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」(2023年、松野博一官房長官)と事実認定を避け、実態調査も行ってこなかった。東京都の小池百合子知事は2017年以降、朝鮮人犠牲者らの追悼式典に追悼文を送ることをやめた。国や行政が史実に背を向ける中、ネットでは事件自体を否定するような書き込みもみられる。

 この日、韓国の議員からは「特別法により韓国政府は調査を開始するが、韓国の調査だけでは限界がある。100年前の事実をうかがう最も重要なカギは日本にある」(尹建永=ユンゴニョン=氏)と日本政府に関連資料の提出を求める声も。李学永(イハギョン)氏は記者会見で「特別法が施行されれば、政府レベルで韓国から日本へ協力を求めることができる」と実効性に期待を寄せた。

 日本側の議員団は協力を約束した。7月の熊本地震など自然災害のたびに、外国人と犯罪を結びつけるような流言が飛び交う現状を踏まえ、杉尾秀哉参院議員(立民)は「現代につながる問題であり、政府が事実を認めることが、歴史修正主義への警鐘になる」と述べた。

◆「事件を心に刻むことがヘイトがまん延する日本社会に必要」

 埼玉県南部の駅前などでクルド人をはじめとした外国人へのヘイトスピーチに抗議してきた市民でつくる「川口蕨ノーヘイトスタンディング」は9月5日、震災後に朝鮮人の殺害が起きた証言が残る荒川沿いの現場を巡り、追悼のスタンディングを行うことにした。

 メンバーの男性は「朝鮮人虐殺のような事件を二度と繰り返さない、というのが反差別の活動の原点。学びながら巡りたい」と企画への思いを語った。ヘイトクライムが起きる危険は増しているとし、日韓の国会議員の協力について「虐殺事件の公的調査が行われ、真相究明が進むことを期待している。事件を教訓として心に刻むことがヘイトがまん延する今の日本社会に必要ではないか」と話した。