(朝日新聞 2019/09/18)

 日韓の対立による実体経済への悪影響が鮮明になってきた。8月の韓国からの旅行者は前年からほぼ半減し、日本から韓国への輸出は1割近く減った。需要のかき消えた観光地や、不買運動に見舞われる日本企業の悩みは深いが、両政府は拳を振り上げたまま。事態解決を模索する動きは弱い。

 別府や由布院など韓国人客に人気が高い温泉地を抱える大分県。宿泊客が急減し、大分県旅館ホテル生活衛生同業組合によると、8月の韓国人客が前年同月から8割減ったホテルもあるという。堀精治専務理事は「今年いっぱいは厳しい状況が続くだろう。耐えなくてはならない。政治的対立には落としどころも考えてほしい」と話す。

 韓国から近く、温暖で秋から冬にかけてゴルフと温泉を一緒に楽しむ韓国人客が多い地域だ。普段なら予約が伸びるかき入れ時だが、その兆しは見えない。

 大分空港から車で約20分のパシフィックブルーカントリークラブ(大分県国東市)は、宿泊施設が併設され、利用者の半数が韓国人だったという。だが7月以降、キャンセルが相次いだ。もともと団体客が多く、貸し切り予約はすべてキャンセルで全体で計1200人分に上る。

 8月までに韓国の格安航空会社(LCC)が韓国と大分空港を結ぶ3路線を運休したことも逆風となり、新たな予約も入らなくなった。韓国人客数は9月は前年同月の半分以下で、10月は9割も減る見通しだ。

 別府ゴルフ倶楽部(大分県杵築市)は、韓国人客が9月に入ってゼロになった。予約も入らないという。全36ホールのゴルフ場に、天然温泉を楽しめる宿泊施設がある。ここ数年は韓国人客数が右肩上がりで増え、昨年度はのべ5千人が利用した。男性支配人は「減少は覚悟していたが、まさかゼロとは。サービス業としては厳しい状況だ」と頭を抱える。

 韓国人客に人気だった観光地を抱える地方への影響は、全国に広がる。

 北海道では、北洋銀行(札幌市)が17日、観光客が減った旅館や飲食店を対象にした緊急融資の相談窓口を道内の全店に開いた。

 「韓国人客が例年の半分しか来ていない。資金繰りを相談したい」といった連絡が9月に入って相次いだためだ。観光客急減による窓口設置は昨年9月の北海道地震以来で、担当者は「まだ大きな混乱は起きていないが、韓国人客の減少がいつまで続くかわからない。観光関連の事業者の不安を払拭(ふっしょく)したい」と話す。(田幸香純、高橋尚之)

◇輸出不振 不買運動も追い打ち

 韓国国内で繰り広げられている不買運動は、日系企業の韓国での売り上げを圧迫している。

 食品の8月の輸出額は前年から4割の大幅減となった。アサヒビールは主力ビール「スーパードライ」を韓国へ輸出しているが、不買運動で一部の店舗の棚から商品が撤去された。同社は「販売に影響が出ている」(広報)と認める。韓国に高級ビール「エビスビール」などを輸出しているサッポロビールでも販売が落ち込んでいるという。

 売上高の半分以上を韓国が占めるスポーツ用品大手のデサント。韓国で「デサント」や「ルコックスポルティフ」といったブランドが人気を集めてきた。広報担当者は「具体的な数字は控えるが、不買運動の影響はもちろんある」と説明する。8月に発表した中期経営計画では韓国依存からの脱却を掲げたが、売上高の大きな韓国は主要市場から外せないという。

 韓国で「ユニクロ」を188店運営するファーストリテイリングもこのところの客足が落ち、売り上げが悪化している。広報担当者は「今後も日韓関係を注視していく」と話す。

 韓国輸入自動車協会が4日発表した8月の日本車の新規登録台数は、前年同月比56・9%減の1398台だった。7月は前年同月比17・2%減だったが、下げ幅が拡大。韓国経済の停滞から輸入車全体でも5・6%減ったが、日本車の落ち込みが目立つ。

 日本製品不買運動や日本旅行ボイコットの呼びかけは、日本政府が半導体材料の対韓輸出規制強化を始めた7月ごろから始まった。韓国では、島根県が2005年に「竹島(韓国名・独島)の日」を制定した時なども日本製品不買が呼びかけられたことがあるが、広がりはなく失敗。今回は問題が長期化した上、ネットを通じて拡散したこともあり、国民の約6割が参加する持続的な活動になった。

 韓国の世論調査会社リアルメーターが8月15日付で発表した世論調査結果によると、76%が日本が輸出規制を撤回するまで不買運動が続くと回答した。韓国メディアは、こっそり日本製品や文化を消費する「シャイ・ジャパン」現象も起きていると伝えているが、大勢を変えるには至っていない。

 日本の全世界への輸出は8月に前年から8・2%減り、9カ月連続で前年割れした。米中貿易摩擦などで深まる世界経済の減速に、日韓関係の悪化が追い打ちをかけている。

◇相次ぐ報復 遠い解決

 経済の「泥沼」を前にしても、事態の改善に向けた政治の歩みは鈍い。

 韓国は18日、輸出手続きを簡略化できる優遇国のリストから日本を正式に外した。8月下旬に日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA(ジーソミア))破棄を決めたのに続く、対韓輸出規制強化への報復措置とみられる。菅義偉官房長官は同日の会見で「制度の見直しが施行されたことは極めて遺憾だ」と反発した。韓国がこの案を発表した8月以降、根拠を問い合わせてきたが十分な説明がなかったとし「国際社会に対する説明責任を十分果たすよう求めていきたい」とした。

 韓国は11日には、日本の輸出規制の強化は世界貿易機関(WTO)協定に反するとして提訴をしている。日本が協議を拒んだり協議が不調に終わったりした場合は、「裁判」の一審にあたる紛争処理小委員会(パネル)の設置へと進むことになる。

 日本は23日の期限に向け対応を検討中だ。経済産業省関係者は「一般的に協議に応じるものだが、問題がこじれた今回ばかりはどうなるのか」と気をもむ。

 政府は外交当局間の対話は引き続き行う意向で、今月下旬に米ニューヨークで開かれる国連総会にあわせ、茂木敏充外相と韓国の康京和(カンギョンファ)外相との会談を調整している。ただ、昨年の国連総会から約1年間途絶えている安倍晋三首相と文在寅(ムンジェイン)大統領との首脳会談については「今回は会わない」(首相周辺)と実現は厳しい見通しだ。

 日本に強硬姿勢を貫き続ける文政権だが、側近の曺国(チョグク)法相をめぐる数々の疑惑に悩みを深めつつある。検察は曺氏の娘の進学に絡む不正疑惑で妻を在宅起訴し、親族を逮捕するなど捜査の範囲を広げている。与党・共に民主党の幹部は「来年4月の総選挙に影響が及ぶとの危機感が、与党や大統領府には芽生えている」と語る。

 大統領府の内情を知りえる関係者は「政権はコーナーに追い詰められ、外交で強硬姿勢を続けることに重みを感じ始めた」と指摘。「実際は日本との妥協を望んでいる。国連総会での韓日の首脳会談には負担を感じざるをえないが、米国を間においた3カ国の首脳会談なら体面を保てると実現を目指しているようだ」と話す。米国にも仲介の動きがあるという。(田幸香純、高橋尚之)


2019年09月18日