(神戸新聞 2020/02/05)

 新型コロナウイルスによる肺炎拡大により、政府が中国湖北省に滞在歴のある外国人の入国拒否を続ける中、日本の永住権を持つ30代中国人女性(神戸市在住)が、帰省先の同省武漢市から日本に戻れなくなっている。連れている5カ月の長男は早産のため定期的な治療が必要だが、武漢の医療施設は肺炎対応で手一杯の状態という。政府チャーター機には日本国籍がないため乗れなかったといい、女性は「息子のために一刻も早く脱出したい」と訴える。

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▲小さな長男を抱く女性。ほとんど外出していないという=5日、中国湖北省武漢市(女性提供)
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▲夫のマンションから見える街には人影がない=5日、中国湖北省武漢市(女性提供)

 女性は5日、会員制交流サイト(SNS)上のテレビ電話を通じて、神戸新聞の取材に応じた。

 武漢出身で2002年に日本へ留学。京都の大学を経て、神戸大学大学院で言語学を研究し、11年から神戸市内の企業で働く。12年に結婚した同郷の夫は医師で、同年に休職して神戸大大学院に留学。女性は16年に永住権を取得し、現在は帰国した夫と離れ、神戸で購入した家で暮らす。

 待望の長男が生まれたのは19年8月。予定日より2カ月早く、体重は1840グラムだった。女性は旧正月を実家で過ごすため、同9月に飛行機のチケットを購入。帰省した今年1月14日時点では、人から人への感染はないと聞いていた。

 ところが、21日ごろに感染拡大が報じられると状況は急変した。街からマスクが消え、ガソリンスタンドには長蛇の列。22日には日本に帰る便の欠航を知った。23日には武漢を出る公共交通が遮断され、街から出られなくなる。日本政府がチャーター機を出すと聞いて大使館に問い合わせたが「中国籍の人は対象外」と断られ、2月1日には日本で入国拒否も開始。この時点で、女性が神戸に戻るすべはなくなった。

 夫が勤める武漢市内の病院でも肺炎患者がどんどん増え、医療関係者の感染も続出。小児科などの外来は軒並み休診となった。日本で15日に受診する予定だったが、戻れないと薬の処方や注射が受けられない。

 女性は「小さな息子がいつ感染するかも分からず不安だ」と疲れきった様子で話した。(霍見真一郎)


(東京新聞 2020/02/06)
 
【上海=白山泉】日本の永住権を持つ三十代の中国人女性が、生後間もない長男と帰省した湖北省武漢市に足止めされている。新型肺炎の感染拡大で同市が交通を遮断し身動きできない上、日本政府のチャーター機も日本国籍がないため搭乗できなかった。女性は本紙の電話取材に「未熟児で生まれた長男の薬はあと一週間ぐらいしか持たない」と焦りを語った。

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▲中国湖北省武漢市で、生まれて間もない長男の健康を気遣いながら、できるだけ早い日本への帰国を願う女性=本人提供

 関西地方で働く女性は一月中旬、春節(旧正月)休暇に合わせて武漢の実家に帰省した。日本で大学進学するために高校生の時に来日して以来、日本に約二十年住む。武漢では両親が初孫に会うのを楽しみにしていた。日本で学位を取った中国人の夫も、今は武漢で働いている。

 昨秋に未熟児で生まれた長男は定期的な治療と服薬が必要だが、長男が服用する米国製の薬は中国では入手が難しい。女性は「一カ月分の薬しか持ってきていないので、あと一週間しか残っていない」と話す。

 武漢の新型肺炎の死亡率は4・9%で、湖北省以外の三十倍にも達する。患者の急増に対応できず、医療体制が崩壊していることが背景にある。それだけに女性は気が気でない。

 帰省した直後はまだ街にマスクをしている人もいなかったが、新型肺炎の影響拡大は予想以上に速かった。長男の次回の診察に合わせて予約していた武漢発の航空便がキャンセルされた直後、あわてて他の都市から出発する帰国便を確保したが、さらに武漢全体が封鎖されたため移動すらできなくなった。

 日本に約二十年居住し、納税義務を果たしている女性は、すでに日本の永住権を取得。しかし、日本政府が手配したチャーター機には乗れなかった。「子どものためにもし席が残っていれば」と北京の日本大使館に問い合わせたが、「日本国籍でないと搭乗は難しいと言われた」という。

 湖北省からの政府チャーター機での邦人帰国を巡っては、中国人配偶者の搭乗も問題となっており、茂木敏充外相は五日の衆院予算委で「人道的観点から、中国人配偶者も搭乗を認めてもらうべく、中国側と調整している」と述べた。一方で、永住権を持つ中国人については、外務省海外邦人安全課は「答えられる状況ではない」としている。

 日本政府は一日、湖北省に滞在歴のある外国人の当面の入国拒否を決めたが、女性は「日本国民を守るための政府の決定は理解できる」と話す。一方で「生活拠点も会社も日本にあり、子どもの通院も必要。いつ家に帰れるか、子どもの身体が心配です」と不安を募らせている。

    ◆    ◆

 読者から本紙宛てに「永住権を持つ中国人の友人が武漢から日本に帰れない。日本で納税もしているのに、チャーター機に乗ることができなかった」とメールがあり、記者が電話取材しました。

◆自国民と外国籍同等に扱う国も

 武漢市などから自国民を退避させるため各国が手配したチャーター機には、外国籍や永住権を持つ人も自国民同様に扱うケースがある。

 英国は一月三十一日、スペインと共同で航空機を運航。両国民約百人のほか、妊娠中の中国人配偶者やスペイン在住のポーランド人が同乗。デンマーク人とノルウェー人も乗せた。フランス政府と欧州委員会が手配した航空機は、約三十カ国の国民二百五十四人が利用。うち約六十人はメキシコやブラジル、ルワンダなど欧州連合(EU)の非加盟国出身だった。

 オーストラリアは三日、二百四十三人を帰国させたが、対象は自国民と永住権を持つ人。千豪ドル(約七万四千円)の帰国費用も政府の補助で賄った。マレーシアが同日、帰国させた百七人には自国民のほか外国籍の家族も含まれていた。

 米政府は一月二十九日に米国民約二百人をチャーター機で退避させたが、米メディアによると、米国籍のない家族らは対象外だったため、退避を見送った国民もいたという。

↑は各国のチャーター機が『自国民の配偶者でない永住権を持つ中国籍者』を乗せたのかどうかに触れていないですね。


(朝日新聞 2020/02/07)

 新型コロナウイルス対策で政府がチャーターした第4便が6日夜、中国に向けて羽田空港を飛び立った。だが武漢市に滞在する30代の女性は、生まれたばかりの子どもを抱えたまま、今回も日本に帰れない。日本で暮らして18年がたち、永住権も持つ。自分も家族も中国籍であることが壁となっている。

 中国・武漢市。女性は高層マンションの一室で、もう12日間過ごしている。同じ棟からも感染者が出て、怖くて一歩も外に出ていない。近所の住民らも閉じこもっているためか、窓から見下ろす夜の家々は普段より輝いており、それがかえって不気味だという。

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▲武漢市の自宅マンションで過ごす女性と長男。外出も控えている(本人提供)

 大学進学のために初めて来日したのは、2002年だった。そのままメーカーに就職し、両親の紹介で知り合った中国の男性と結婚。関西地方にマンションを買って一人暮らしをしていた。月に1度、夫が来日してくれた。

 待ち望んでいた子どもが昨秋に生まれた。両親に見せようと、武漢の実家に1月に向かった。

 事態が急変したのは1月22日。新型コロナウイルスの流行で帰国便がキャンセルになった、と航空会社から知らせが来た。翌日には武漢市が「封鎖」を発表。まだ、なんとかなるだろうと思っていた。しかし26日、自家用車の利用も禁じられた。「これはまずい」。春節で集まっていた親戚は慌てて帰宅した。

 日本政府によるチャーター便の話を聞き、在北京の日本大使館に何度もかけあった。しかし、そのたびに搭乗者に該当しないと断られた。日本人の配偶者ならば中国籍でも搭乗が認められるようになったとも聞き、何とかならないか尋ねた。めどはたたない。

 一方、春節を祝うために武漢に来ていた日本人のおじはチャーター第2便で戻った。いまは経過観察のため、埼玉県和光市の施設で過ごしている。「私は日本が大好きです。好きだからこそ日本で就職し、子どもも育てている。ただ帰りたいだけなのに、なぜかなわないのでしょう」

 自宅に食べ物の蓄えはあるが、底をついてきた。一部のスーパーマーケットを除き、個人商店などはシャッターを下ろしている。ネットで食事を注文しようにも、配送業者そのものが営業していない。

 何より心配なのは、生まれたばかりの長男だ。1800グラム余りの未熟児だったので、貧血の薬が毎日必要だ。だが残り10日分ほどしかない。免疫力が弱く、月に1度の診察も必要だ。

 街の不気味な静けさを知るはずもなく、長男は元気に母乳を飲む。武漢に来てから、1日7回ほどに増えた。「人生の半分を日本で過ごしてきました。私を育ててくれたのは日本。その国に帰りたいんです」(鶴信吾)


東京新聞は、官房長官記者会見で質問もしています。

(毎日新聞 2020/02/06)

 新型コロナウイルス感染症や桜を見る会などを巡って、6日午後の菅義偉官房長官の記者会見で質疑があった。菅氏は、中国・武漢からの帰国者を受け入れた宿泊施設関係者の子供がいじめを受けた問題について「文部科学省が感染症を理由とした偏見が生じることのないよう、児童生徒等の人権に十分配慮をする」との通達を出したと説明。中国への支援について「困った時の友こそはまさに真の友」の精神だと述べた。主なやりとりは以下の通り。【秋山信一】(略)

[東京新聞 川田篤志]本紙(東京新聞)の取材で日本の永住権を持つ30代の中国人女性が、武漢市から日本に帰国できずにいることが分かりました。北京の日本大使館に日本への帰国希望を伝えたそうですが、日本国籍でないと搭乗できないと言われて、日本政府のチャーター機には乗れなかったそうです。この件に関して、政府として把握している事実関係と彼女のような日本の永住権を持つ帰国希望者の取り扱いについて方針があれば教えてください。

[菅義偉官房長官]まず個別の事案の取り扱いについて、お答えは差し控えたいと思います。その上で、一般論としてこれ申し上げれば、中国籍保持者のチャーター機への搭乗については、中国政府側の方針も踏まえつつ、これ調整する必要があります。日本国籍保持者と何らかの関係を持つ方々の搭乗につき、中国側と調整をしてきていたという、そういう経過があります。(略)


後発の朝日新聞ですら彼女以外を取り上げていないところを見ると、チャーター機搭乗を希望した『永住権を持つ中国人』は彼女しかいなかったのかな。

せめて夫が現在日本在住なら「人道的見地から」と日本政府も中国側に強く言えるでしょうが、日本の永住権を持っているだけでは、当初中国人配偶者の出国も許可しなかった中国に、武漢に実家があり夫が居住している中国人の出国を許可させるのは、もう少し時間がかかるんじゃないですかね。

第4便で薬を運んで渡し、医師の夫と日本の担当医とが連絡を取り合えるようにするくらいはできたかもしれませんがね。