(朝日新聞 2020/11/10)

経世彩民 西山明宏の目

 上海で10日まで開かれていた中国国際輸入博覧会を取材した。広大な展示会場を回っていると、日本語で「16週間、香りが続く!」という女性の声が聞こえてきた。ちょうど目の前には日本の生活用品大手のブース。でも、声はそちらからではない。振り向くと、その大手企業と同じくらいの大きさで、別の企業のブースがあった。

 近寄ると、人々が大行列をなしていた。製品のサンプル品をもらえるからのようだ。展示されていた洗濯用洗剤のパッケージには、カタカナとアルファベットを組み合わせた「フレッシュ HY」や「Kaポッド」の文字。日系企業の新製品だろうか。社名を探すと、「王子石鹼(せっけん)」[王子石鹸]と書いた看板を見つけた。

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▲中国国際輸入博覧会での「王子石鹼(せっけん)」のブース。商品サンプルを目当てに長い行列ができていた=2020年11月5日、上海、西山明宏撮影

 経済部で化学メーカーの担当をしていた経験はあるが、社名も製品名も聞き覚えがない。スマートフォンで調べてみると、会社は大阪にあるらしい。さらにホームページの会社概要をみると、実はこの会社、シンガポールや香港、広州などに拠点を置く大手化学メーカー「威莱」[Whealthfields Lohmann ウェルフィ・ローマン 本社 香港]の系列だった。「中華系の企業じゃないか」。その後、自分も威莱の液体の手洗い石鹼を北京の自宅やオフィスで使っていることに気づいた。

 王子石鹼のホームページには「日本人の生活様式や嗜好(しこう)に応じて、日本で開発されたもの」とある。王子石鹼の担当者に聞くと、中国などで人気の日本品質の商品をつくろうと3年前に進出。中国などへの輸出だけでなく、日本でも市場参入を狙っているという。

 輸入博は、外国の企業が中国のバイヤーに製品やサービスをアピールする場だ。中華系企業が日本を語っているのをみて、なんだか複雑な気分になった。

 中国での日本企業のブランド力は、いまだに強い。トヨタ自動車や資生堂、パナソニックをはじめ、社名やブランドが幅広く浸透している企業は少なくない。一方、そうした日本の有名企業と見間違うような、いわゆる「パクリ」商品は昔からあった。だが、王子石鹼は正確にはパクリではない。「日本風」であることを売りにしているのだ。

 日本風を売りにした中国企業のビジネスでは、「本家」の日本企業を超える成功を実現したケースもある。例えば、2013年に広州で創業し、日本風雑貨店を営む名創優品産業だ。いまや中国だけでなく世界80カ国以上に4200店超を展開する。

 四角の赤地に白で書かれたロゴはユニクロを連想させ、「メイソウ」「MINISO」という名前や均一の低価格という設定は100円ショップのダイソーを彷彿(ほうふつ)とさせる。白を基調とした小物雑貨は無印良品のようだ。ハローキティーの商品もある。

■「日本風」で驚異的な成長

 そんな名創は10月、米国のニューヨーク証券取引所に上場した。上場直後の時価総額は70億ドル(約7200億円)。驚異的な成長スピードは、もはやどちらが「本家」かわからなくなる。

 「どうせ日本企業のパクリだ」。そう馬鹿にして、目をそらすのはたやすい。だが、ビジネスは競争だ。「オリジナルをつくった者は尊敬を集めるべきだ」と私は信じるが、ビジネスで勝つか負けるかは別の問題だ。こっちが本当の日本式ですと叫んだところで、消費者にはそれほど大きな問題ではない。

 4年前に北京に留学した際、世界中から集まった留学生仲間から「ミニソウでこんなかわいいものを買った」「日本はすごいね」といわれた。「日本の企業ではないよ」と言っても、彼らはがっかりはしない。高品質な日本風の製品をお得な値段で買った満足感があるからだ。

 日本は、おもてなしの質が高い、品質やサービスは世界一信頼できる、客は最高水準の体験をしている――。「クールジャパン」をはじめ、そうした特色を持つ日本ブランドを強調することは多いが、ブランド力の強さにあぐらをかいてはいないだろうか。液晶表示装置の技術力が高ければ売れるといって韓国勢に追いやられた薄型テレビ、カメラ付き携帯電話を初めてつくったのに、いまや世界トップに全く食い込めない日本製スマホの厳しい状況を思い起こしてしまう。

 中国経済を長くウォッチしているアナリストが先日こんなことを言っていた。「いまや中国市場での勝者が世界を制する時代になっている。何でもありの厳しい競争にもまれ、そこで勝ち抜かなければ、世界から取り残されていく」。日本企業はどうか。「多くの日本企業は中国に進出こそするが、その競争からは逃げているようにみえる」という。

 すでに国内総生産(GDP)で日本を追い抜いた中国。市場は速いスピードで変化し、激烈な競争を強いられる。そこで企業が生き残るのは容易ではない。勝つためには「日本風」や「日本製」「日本で開発」なども強く訴求するということなのだろう。グローバル展開する日本企業にとっては、そんな彼らとの競争が、当たり前の時代になっている。(中国総局・西山明宏)


王子石鹸はペーパーや幽霊じゃないようですね。

 中国の日用品・化粧品メーカーWhealthfields Lohmannが大阪に日本法人を設立
(JETORO 2017/12/28)

Whealthfields Lohmann Ltd.は、日用品・化粧品の製造販売会社で2000年に中国香港で設立され、現在、中国、韓国、シンガポールと日本で事業展開している。洗濯用洗剤、消毒剤、シャンプー、シャワージェル、ハンドソープ、柔軟剤、その他、計12種類1,000品目の関連製品を製造している。SARS(重症急性呼吸器症候群)禍の際にハンドソープが大量に販売されたのを機に事業の拡張路線に転じた。現在は中国の生産拠点を含め、グループ全体で10,000人の従業員を擁する。

同社は、より高い価格帯での製品開発に取組み、日本の先進技術を取り入れ、「Made in Japan」の付加価値をつけた製品を生産できる体制構築のため、2017年8月に、大阪府にウェルフィ・ローマン株式会社を設立し、堺市内に確保した小型の工場の稼働準備を急いでいる(写真)。現在は日本国内の委託先でOEM生産した製品を中国に輸出しているが、今後5年以内に大阪府に1万平米規模の自社工場を設立したいと考えている。

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▲工場入口

ジェトロ対日投資・ビジネスサポートセンター(IBSC)では、テンポラリーオフィスの貸与、会社設立手続き支援、人材探し支援、補助金申請に関するアドバイス、自治体の紹介・面談アレンジ、ビジネスマッチングを実施した。

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