中国の「禁書」売る書店、台湾で復活 香港から「亡命」
(朝日新聞 2020/04/30)

 中国共産党を批判する本を売っていた香港の「銅鑼湾書店」。2015年に中国当局に一時拘束された事件の後、店長の林栄基さん(64)は台湾に逃れた。香港で自由な言論への締め付けが増すなかで、書店は台北市内に場所を移し、25日から再び営業を始めた。

◇天安門や劉暁波…妨害行為も

 台北市内の繁華街、南京西路。デパート前にある雑居ビルの10階が、書店の再出発の場となる。60平方メートルほどのこぢんまりした店内の壁に沿って、背の高い書棚が身を寄せ合っている。

 中国の歴史や政治をテーマにした一角には1989年の天安門事件の記録書や、獄中でノーベル平和賞を受賞した中国の人権活動家、故・劉暁波(リウシアオポー)氏の著作「鉄窓後的自由」などが配架されている。

 「どの本も、中国に送れば税関で没収されてしまうでしょう。でも、この銅鑼湾書店の品ぞろえに、『禁書』という概念はありません」。店長の林さんはこう言って胸を張った。

 林さんが台湾に逃れたのは、ちょうど1年前。昨年4月25日だった。

 高度な自治を保障するとした「一国二制度」のもとで司法の独立性が保たれてきた香港。そこに、刑事事件の容疑者を香港から中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案の立法会(議会)での本格審議が迫っていた。成立すれば自らも再び拘束される恐れがあった。悩んだ末に、事実上の亡命を決めた。

 その後、昨年6月から香港で政府への大規模な抗議デモが広がり、催涙弾や、ときには実弾も使った香港警察の取り締まりが激しくなった。林さんは当時を、「現地のニュースや友人からのメッセージを一晩中眺めて、眠れなかった」と振り返る。

 資金集めは難航したが、最終的にネット上で寄付を募るクラウドファンディングによって、約600万台湾ドル(約2千万円)が集まった。香港の店は、繁華街の銅鑼湾(コーズウェイベイ)地区のデパートや地下鉄駅近くにあったため、台北でも同じような立地を選んだ。

 台北の店内の窓際の壁には、「光復香港(香港を取り戻せ)」と染められた旗が飾られている。香港の抗議デモで使われたものだ。「台湾でも同じように本屋を開くことで反抗を続ける。人々が自由に本を読める権利を守る」と林さんは言う。

 ただ、再開を前に、妨害行為も起きている。

 21日朝、林さんが書店の近くの喫茶店に出かけたとき、男に赤色のペンキをかけられた。台湾にも、中国共産党を支持する立場の人々がいる。男は逮捕されたが、銅鑼湾書店の「復活」に対する嫌がらせの可能性があるとみられている。

 林さんは状況が落ち着くのを待って、台湾に逃れている香港人や地元の台湾人の交流の場として、書店内で勉強会や講演会などを開く計画という。(台北=西本秀)

■失踪事件、香港市民に危機感

 林さんら関係者が次々と失踪した銅鑼湾書店事件は、言論の自由が揺らぐ香港の現状を象徴する存在となった。昨年から続く抗議デモも、この事件によって市民の危機感が一気に高まったことが背景にある。

 事件が発生した2015年当時、香港では前年に挫折した民主化デモ「雨傘運動」の影響で、若者を中心に反中国感情が拡大していた。民主派は言論の自由への脅威だと訴えたが、同書店は主に中国本土の観光客に書籍を販売して利益を得ていたことから、社会の反応は冷ややかだった。

 そうした状況を一変させたのが逃亡犯条例改正案だ。昨年2月に公表されると、市民の間で「中国に不都合な言動をすれば、銅鑼湾書店事件のように本土で拘束されかねない」との不安が広がった。生まれ育った香港を離れるという苦渋の決断をした林さんへの同情も高まり、改正案への反発が強まった。

 事件後も香港の言論環境の悪化は少しずつ進みつつある。2年前に香港独立派を招いた講演会で司会をした英紙記者の就労ビザが更新されず、事実上、追放された。香港の独立を一切認めない中国側の意向を踏まえた措置とみられている。(広州=益満雄一郎)

■銅鑼湾書店に関連するできごと

2015年10月以降 林栄基店長ら関係者5人が失踪。のちに中国本土で拘束と判明した
2016年6月 林氏が拘束を解かれ、香港へ戻る
2018年1月 関係者の作家、桂民海氏が北京近くで再び拘束
2019年4月 林氏が台湾へ逃れる
   6月 香港で「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模デモ開始
2020年2月 中国本土の地裁が桂氏に懲役10年の判決


当時、失踪(?)した関係者5人のうちの一人の銅鑼湾書店の株主で作家の李波氏のことも報道されていましたね。

2016年01月19日
2016年01月25日